電池や配線が不要のワイヤレスセンサーネットワークシステムを開発~建物内で日常的に発生している環境振動を発電に利用~
2013年11月8日
株式会社竹中工務店
竹中工務店(社長:宮下正裕)は、人の歩行や設備機器などによって建物内で日常的に発生している環境振動のエネルギーを電力変換し、センサー電源として活用して建物内の環境をオートモニタリングするワイヤレスセンサーネットワークシステムを開発しました。
本システムの利用法の一例として、空調ダクトの微振動を利用したオフィス空間の温湿度モニタリング実証試験を当社技術研究所で行い、半年間にわたって電源自立型のシステムが稼働することを確認しました。
今後当社は、適用先や用途に応じて様々なデバイスメーカーとの業務提携を検討しながら、振動発電を利用した技術・システムの拡大を目指します。
【開発の背景】
近年、M2M (Machine to Machine)などのセンサーネットワークに対する期待が高まる一方で、膨大な数のセンサーへいかに電源を供給するかが、クローズアップされています。これに対応する技術として、人の歩行や交通に伴う振動や、光、熱、電磁波などの未利用のエネルギーを電力に変換する外部電源や電池を必要としないエネルギーハーベスティング技術が注目を集めています。
【システム概要】
本システムは、振動発電デバイスとワイヤレスセンサーモジュールをパッケージ化した、電源・電池が不要な振動発電センサーシステムです。デバイスなどを供給するミツミ電機株式会社(社長:森部 茂)の協力により、開発が実現しました。
振動発電デバイスは、建物床の制振装置として広く使われている「TMD(Tuned Mass Damper)」を利用※1することで、広範囲(12~41Hz)の振動を効率よく電力変換できるようになっており、設備機器やダクトによる振動であれば、設置場所(振動源)を選ぶことなくセンサー電源を確保することができます。
イヤレスセンサーモジュールは、微小な電力を効率良く使える低消費電力型で、温度と湿度のセンサーを搭載しており、今後センサーの種類を増やしていく予定です。
- ※12010年9月17日付リリース
建物の揺れを防ぐ制振装置が話題の振動発電に一役
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【 実証試験 】
本システムの利用法の一例として、オフィス空間の温湿度モニタリングを想定した実証試験を、当社技術研究所の約400m2の執務スペースにおいて実施しました。
天井懐の空調ダクトに設置した振動発電デバイスからの発電電力でワイヤレスセンサーモジュールを駆動させ、執務スペース側の空調吹出口の温湿度を半年間にわたって継続的にモニタリングできることを確認しました。
実証実験の実施状況
【 本システムを利用するメリット 】
本システムを利用することで、多数のセンサーを使うネットワークシステムの導入・運用の障害となっていた電池交換や配線工事を無くし、簡易にシステムを構築することができるようになります。用途やレイアウトの変更などの改修工事においても、センサー設置箇所を容易に変更できるなどのメリットがあります。
また、構築したシステムによるモニタリングを通じて、環境の見える化が可能となります。 例えば、今回実証試験を行ったオフィス空間の温湿度モニタリングでは、執務スペース20~30m2ごとにきめ細かく収集した温湿度データを空調運転に反映することで、省エネを実現しながら、執務者一人一人の快適性・満足度を確保する建物運用につなげられます。今後は、加速度センサーなど各種センサーとの組み合わせにより、高層建物外壁・原子力施設・橋梁内部・トンネル天井部・大型機器などの人の立ち入りが困難なエリアでの健全性モニタリングを通じた安心・安全や、設備機器などの運転モニタリングによる維持管理・更新の効率化など、適用先や用途に応じた付加価値を提案・提供していく予定です。
【 エンジニアリング奨励特別賞を受賞 】
本システムは、一般社団法人エンジニアリング協会による平成25年度「エンジニア功労者賞・奨励特別賞」において、実プロ化が期待される先駆的な技術等に贈られる「第5回エンジニアリング奨励特別賞」を受賞しました。
今まで利用できなかった環境振動をセンサー電源として利用できることを実証した先進性に加え、建物・設備・インフラのモニタリングといった建築土木分野の枠を超え、防災・セキュリティ・交通・流通などの分野にも展開できる汎用性と可能性が評価されました。