DESIGNWORKS Vol.02
4/26

Interview山中孔 氏に聞くこれからの“住まい”を考える「邸宅」に「居宅」も———今日は、竹中工務店設計部の大先輩の山中 孔さんをお迎えし、住まいについて考えてゆきたいと思います。失礼ですが、山中さんが入社されたのはいつ頃ですか?山中 私は1952年の途中入社です。そのころの設計部長は日野さんでした。代表的というか記憶に残る作品は、そうですね、第一生命ビルとか新朝日ビルですね。———私達の印象で言うと、山中さんは一貫して住宅をテーマにされてきたという印象ですが、当時の竹中工務店の住宅への取り組みは、どうでしたか?山中 当時の竹中工務店は「美術建築の竹中」といわれていて、住宅はそれほどありませんでした。しかし、戦後の復興の中で、どうしたら広い住まいができるかなど、質については関心を持っていました。———復興期といいますか、そのころの日本の住宅政策はどのようだったのですか?山中 戦後間もないころは、とにかく住む家を確保することが第一義的でしたが、昭和30代高度成長期の終わり頃から、国としての住宅政策の新展開が進められたように思います。つまり、『住宅こそ人格形成の原点』であるという考え方で、より質の高い住宅を供給するという「量から質へ」の転換が行われました。「住宅建設5ヵ年計画」がスタートしたのもこの頃です。また、通商産業省の内田元享さんが「住宅産業論」(1968年)を提唱して、産業界も住宅を視野に入れた動きが目立ってきました。ハウスメーカーが創設されたのもこのころです。その頃の竹中工務店は、特に要請された「邸宅」は結構やっており、作品として雑誌にもよく取り上げられ「竹中の住宅」として定評を得ていました。しかし、ここにきて社会からの大きな動きを受けて、それまでの邸宅に加えて「居宅」に関しても積極的に取り組もうとという気運が高まってきました。———具体的にはどういった取り組みですか?山中 一言で言うと、住宅の工業化です。工業化することによって社会の求める廉価で質の高い住宅が供給できるという……———いわゆる『ICS』住宅というのがそれですか?山中 そうです。ICSつまりIntegrated Construction System。統合生産システム、これは結構好評で10年で5万戸を受注したほどでした。今の価格にすると1兆円ぐらいになると思います。ここでいいたいのは、単に数だけでなく、住まいのあるべき姿『人格を形成する原点』となるような良質の住空間を、経済活動にどう乗せるかという、なかなか両立の難しい課題へのチャレンジでした。竹中のICS住宅では、広さについては96㎝モデュールを採用し、当時ホテルにしか使われていなかったユニットバスを、はじめて集合住宅へ導入したのもそのためでした。———住宅へのユニットバス導入ですか?山中 そうです。最初はそんな高価なものを使うのは、どう考えても無理だというのが大勢でしたが、特志のメーカーに協力してもらい実現にこぎつけました。今では、あたりまえになっていますが当時は大変でした。でもこのおかげで、水廻りの工事は簡単になり結局はメリットが出てきました。———工業化に関してはどのようにお考えですか?山中 よく使われている数式を知っていますか?V=Q/C・D、Vは価値ですね。Qは望まれる品質、Cはコスト、Dは納期です。この数式から解るように、価値Vを上げるためにはコストCの低減と共に、納期Dつまり工期短縮、言い換えれば施工の効率を上げることが大切になってきます。工期短縮のためには工業化工法や工場生産といったことが大切になってきます。そのためには、現場が始まる前に設計と施工が一体となって考えておくことが大切ですね。———つまり、設計施工のメリットですか。山中 そうですね。具体的な数字でいうと、当時在来工法の木造住宅では平米あたり10人位の人工がかかっていたのですが、それを3人以下にできると、それだけで随分効果が出ますね。最終的には1.8人/㎡になったと思います。芦屋浜高層住宅プロジェクト———芦屋浜高層住宅プロジェクト(ASTM※1)に関してお伺いします。これはどのようなコンペだったんですか?山中 国家プロジェクトともいえるものでしたね。工業化工法によって、20haに3,400戸12,000人、600人/haの高密度、14階建以上の高層といった、当時としては総てに新しい提案を求められたコンペでした。一口で言えば、コンパクトシティへの提案でしょうか。———多くのチームが応募したんですか?山中 このコンペは1972年に実施されまし※1 ASTM:芦屋高層住宅を手がけた企業連合名称、プロジェクト略称。ASTMの名はプロジェクトの地名芦屋と構成企業5社 (新日本製鐵・竹中工務店・松下電工・高砂熱学工業・松下興産) の頭文字を組み合せたもの。芦屋浜高層住宅 全景Interview

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer9以上が必要です