DESIGNWORKS Vol.04
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Interview鈴木博之氏に聞く多様な社会に対応した教育空間について今回は学校を特集しています。インタビューに先立ち、大阪本店の作品としてプール学院中学校・高等学校と神戸夙川学院大学を、東京本店の作品として足立学園中・高等学校と東京誠心調理師学校を視察して頂きました。まずは各々の作品をご覧になった印象を伺いたいと思います。緻密なプログラム鈴木 プール学院の場合ですが、ヴォーリズ※1 の造った建物の記憶を中心にすえるという非常に大きなテーマがあり、そこに新しいプログラムを入れ込む必要があった。建築観を継承し古い部分を残すと同時に、敷地内に新たにビオトープを組み込むという不思議な組み合わせなのですが、なかなか成功していると思いました。これとは逆に夙川学院大学の場合では、埋立地に一から学校を造るということで、明快な新しいプログラムを用意できている。ただ、新しい場所だけれども、横に2つ大学があって3つ目の大学という意味ではコンペティティブな場所ですね。ここで3つの大学を統一するのではなく際立ったプログラムを可視化するという判断をされたと思いますが、その意味でプール学院とは対照的な選択をなされていて、それが設計者の判断なのかと感じました。足立学園ですが、密集市街地の中で教育環境を更新していくことは非常に困難だったと思います。プール学院では清心館のイメージを継承の中心に据え、足立学園の場合では体育館を物理的に使い続けようということで補強鈴木 はい。やはりその意味で建築の力は学校にとっても凄く大きいですね。それと、プール学院では卒業生の間でチャペルに対する愛着が強いそうですが、それぞれの学校においてもこれから卒業していく人達に自分の学生時代の記憶として建物が伝えられていくと思います。単なる教育施設というのではないアイデンティティーをそこで勉強する人に与える、そういう努力というか思いがこれらの作品にはこもっている様に感じました。———アイデンティティーを鮮明に出していかなければ、学校として生き残れない時代になりつつあるのでしょうか。鈴木 そうでしょうね。一時期、大学を都心に設置してはいけない、新設したければ郊外でしか認めない※3というのがありましたが、あれで多くの大学が失敗して結局は都心へ戻ることになっていますよね。やはり人間は機械では無いのだから、こちらの方が効率的だからそこで生産するというようなものでは無いと思いますね。今後ますます子供の数が減っていきますが、どういう学校で勉強したいか、どういう学校を出たいかというのは、今まで以上に切実になって くると思います。教育環境の多様化———商業施設やホテルはどの層の客をター ゲットにするかを明確にして計画します。学校はどのような学生をターゲットにどういうしデザインに多少の手を入れる。空間的に大きなものの存在というのを非常に大事に扱い無理をしないで継承していくという意味では、プログラム的に同じような手法をとっていると思います。足立のほうは表現が無機質で、ダイナミックで現代的ですが、継承性と新しい環境を作るという意味では同じ発想に立っている。プール学院も横に運動場があるけれどもコミュニケーションの中心は中庭に求めていた気がしますし、足立学園の場合にも中の運動場が活動の中心で、自分の位置を確認する中心にもなっていますね。誠心調理師学校はHACCP(ハセップ)※2という衛生管理システムを組み込んだ緻密な明快さがとても面白かったですね。それでいて、 共通のエレベータ前のホールは非常にゆったりと確保していて遊びがある。大変に上手いプログラムの解決の仕方をしておられると思いました。4つの作品を見させて頂きましたが、やはり与条件が全く違いますよね。これらを見渡してみると、変わりつつある学校という組織と複雑な条件の中で如何に建築を実現させていくかは、本当にケース・バイ・ケースなのだなと実感しました。見た目のモチーフ やポリシーなどはそれぞれ違いますが、今の教育施設というのはむしろ病院に近い緻密なプログラムの中で成立していて、それをどう解決し、なおかつ学び舎の記憶に繋げていくかを各々がお考えになったと思い、とても面白いと感じましたね。———教育プログラムを建築でどう具現化するかが重要かつ面白い部分だと。プール学院中学校・高等学校神戸夙川学院大学写真:母倉知樹Interview
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