DESIGNWORKS Vol.04
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教育をするかという議論は活発に行われていますが、それを支える建築という意識がまだまだ未成熟なようです。鈴木 今回掲載される学校は全て私立ですね。 ですからそのような姿勢を鮮明に打ち出していこうとする学校も出てきてはいますが、本来は公立の学校でも同じような事情はあるはずですよね。他との差別化が無いと、少子化の時代に生き残ることは難しいのかも知れません。公立中学でも中高一貫教育などが出てきてはいますが。———教育の多様化によって今後建築も変わっていくのでしょうか。鈴木 変わっていくでしょうね。足立学園は男子校なのに、とても良い調理室があることに驚きました。誠心は調理師育成の専門学校ですが、あれほどの素晴らしい施設や教室を持っている。これも多様化の中での変化の 一例でしょうか。誠心の階段教室は何だか19世紀の解剖教室みたいですが、捌いているのだから同じようなものですかね(笑)私が今興味を持っているものに、戦後の50年代に松村正恒※4さんが設計された、愛媛県八幡浜市の日土小学校(※4)というクラスター型の木造小学校があります。その小学校は教室が両面採光になっていて、川に校舎が張り出しているような形状になっている。市も保存しようという方針を打ち出していまして、東校舎、中校舎、西校舎のうち西校舎は松村さん以降のものなので建替えると。そして、残すほうもある程度手を入れて現代の教育に相応しいようにしようと、地元の建築家の方が努力されている。 ランチルームなどの特別教室が必要であり諸々取り替えなければならないのですが、骨格をいかに継承し、かつ、今の教育水準で要求される多様な施設をどう入れていくのかを話し合っているんですね。今回比較してみるとやはり今の学校は動いていて、以前の学校とは全然水準も考え方も違うというのがよく分かりました。———学校にお金をかけないという時代もありましたが、要求水準の高まりとともに、お金が使われるようになってきているのですね。鈴木 明治あたりまでは学校は村の誇りのように扱われていましたからね。今回のこれらの作品が取り分け贅沢だというものでも無いと思いますが。プール学院の見学の際に伺ったのですが、コンピューター教育というのはかなり補助金が出るから施設を整備し易いだとか、ビオトープを設置しても補助金が出るのだということを学校も色々考えている。自分のところに合ったプログラムを取り入れておられるのでしょうね。足立学園の体育館では耐震改修促進法のプログラム上手く使っている。新築だけではなく、継承していくときのプログラムというのも少しづつ出来てきているのだなと。ですから、補助金をうまく使っていくのが学校のより良いビジョンを実現する手助けになるという気がしますね。足立学園中・高等学校東京誠心調理師専門学校———足立学園の体育館は新しくしたいという要望もありましたが、ストラクチャーも非常に良く出来ていましたし、結局残すことになりました。鈴木 私はあの体育館は良い建物だと思いましたね。妻側なんか良いプロポーションをしています。足立学園は周辺が全部民家で中へ入っていく道は商店街のところからだけですし、それこそ大型消防車が入れない場所だから、今までのを壊して新しいものを建てるとなると大変な作業になりますよね。それに、全面的に建替えることでさらに都市環境を過密で危険なものにする可能性だってあるわけですから。体育館を残して真ん中にグラウンドを取ったことは、安全性の上からもいいと思いますよね。———足立学園ではそれが成功し、真ん中のグラウンドなどは学園祭などで街の人にも有効に使われているようです。鈴木 それは学校と周辺商店街などとの関係にとって、とても良いことですね。地域との関係で言えば、調理師学校の場合はデモンストレーションというか、教育用のレストランを地域に開放していますね。しかもあのレストランは月代わりでメニューが変わるのですよね?上手く運用されているなと思いますね。夙川学院大学の場合には3キャンパス共通で学生がレストランや図書館を使い、そして一般の人も使えるようになっている。プール学院もクリスマスの時にはチャペルを地域に開放していると。写真:小川泰祐写真:堀内広治Interview
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