DESIGNWORKS Vol.05
6/36

公共性と共同性の違いについて考えて頂きたいのですけれども、この二つは似ているようですごく違っています。例えば共同体のための広場では、共同体メンバー以外は排除されるわけです。共同性は同化と排除っていう原理を持っているんですね、でも公共性は、同化と排除の原理を持っていない。つまり、GYREで言えば、そこはある消費スタイルを共有する人のコモンなんですね。公共性のある場所には、それにあえて反する生き方も試し得るような、ある寛容性が必要なのですが、そうなってはいません。現代社会は、セキュリティ確保が絶対要件なので、そういった寛容性は後回しにされるわけです。このように突き詰めて考えると、民間にリスクをとって公共性を確保しなさいというのはある意味で逆説的です。これは文字通り、公共がやるべきことだと思います。例えば、公共側がキャットストリートの方で、公共的な仕掛けを誘導してGYREがそれと呼応する。そうした官民一体となった枠組みが作られ、パブリックとコモンが解け合った領域がそこを通る人たちに提供される、そういったことが実現していたらよかったのかもしれませんね。そうした限界はあるものの、空間としての構成は印象深いですね。外部は質感のある黒、中の商業空間は光沢のある白、さらにその内のエレベータが入っている吹き抜けは光沢がある黒。そのあたりの切り替えを素材でうまく表象しています。それが、彼女を連れてきたいとか、自分の所有欲を満たしたいといった、欲望に関わるある種の怪しさをこの建物に与えているんでしょうね。そういう意味で、ペリメーター的にも有利で、収納もそれなりに備えられる。それらがファサードデザインとしても上手く収まっている。僕が機能から考える人だからそう思うのかもしれないけど、中をどういう風に使うかということを拡張してデザインを組み立てられたような感じが伝わってきて、好感を持ちました。特殊な職場であるからかもしれないけど、いろんな働き方の可能性が詰まっている気がします。信頼というサービス領域———東宝シアタークリエビルでも高層ホテル客室の窓に関心を持たれていましたね。小野田 普通ホテルっていうのは水回りがあって、モジュールが決まっていてなかなか制約が多いですよね。それが水周りを外出しすることによって、プランも楽になり、狭い部屋でもグレードアップが可能になっている。客室の窓割にしても、狭い客室に開放感を出すために掃き出し窓としながらも、プライバシーを守るために幅を狭く設定している。そのあたりを厳しく追い込んで決めたプロポーションを、今度は外装のパネルの納まりや窓の割付とシンクロさせて、タイトに設計しておられる。これは、施工段階に入ってからも厳しくやりとりをしながら、設計の密度を上げていかないと出来ないことで、設計施工一貫というメリットを生かしておられるように思いました。でもクライアントからすると設計施工一貫は諸刃の剣で、コストダウンの成果が施工側に内部留保される可能性もないわけ 与えられた役割にデザインがコンシャスに対応している力作と見ました。———今回の掲載作品にはオフィスもいくつかありますが、今後のワークプレイスについてはどうお考えでしょうか小野田 今日は、竹中工務店東京本店も見学させて頂きました。外周部に執着されずに内部の空間の広がりに様々な可能性を見いだされようとしたのは、以前、阿倍仁史さん、曽我部さん、千葉さん、本江さんたちとオフィス計画をした時に考えたこと※6に近いと感じていて、前から注目していましたし。ただ最近は、建築関係者なり空間の専門家がワークスタイル論を一方的に提示するよりもむしろ、事業者が見つけていく問題ではないかと思っています。つまり新しい働き方は、ゾーニングで縛るのではなく、先に言ったような冗長性が仕込まれたサーキュレーションから発現するのでは、ということです。その意味では、この建物のサーキュレーションもユニークで興味を引かれました。そのうち、研究させて下さい(笑)。今回掲載されているシンコービルなども、敷地に対してコアが端についていてメインのオフィスフロアが奥にありますが、これも不思議な環境ですね。この空間にフィットしたワークスタイルを作れるような事業者がどういう風に出てくるのか、興味がわきます。東宝スタジオのオフィスでも光を入れるところと空気を入れるところは別にされています。下までの大きな窓から柔らかく光が漏れてくるけれども、全体では内部は壁がちだから GYRE新宿ミロードモザイク通り写真:(株)ナカサアンドパートナーズ写真:勝田尚哉Interview

元のページ  ../index.html#6

このブックを見る