DESIGNWORKS Vol.05
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ではない。けれどもここでは、製品の質を確保することを通して、生み出された価値がクライアントにちゃんと還元されている。竹中工務店の底力を見た思いです。ただ、せっかくここまでやられたのですから、パネルの意匠についてはもっと冒険することが出来たのではないでしょうか。僕が良く組んでいるアトリエ系の事務所でしたらもうちょっと振り切れて、都市景観に強いメッセージを発信する作品にまで追い込むように思いました。———最後に竹中工務店設計部にご意見を頂けますでしょうか。小野田 よく言われることですが、建設業とクライアントとの間には情報の非対称性が発生します。クライアントに比べ、建設業の方が建物の建設や維持について圧倒的な情報を持っている。そのような状態でクライアントがプロジェクトを上手く進めるには、方法が二つある。ひとつはクライアントが専門家を雇ってその専門家がクライアントの意図に沿ってプロジェクトを統括する方法です。一般的に建設費は下がりますが、その分プロジェクトマネージャーに支払いするフィーが発生するし、プロジェクトに対して負うクライアントのリスクも大きくなる。もうひとつは信頼に基づいた発注です。古いやり方で合理的でないと言われることもありますが、プロジェクトマネージャーや、監理に対する取引コストは少なくて済みますし、施工側が積極的に完了義務を負うことを通じて、クライアントのリスクを相対的に軽減することも可能です。長期的に取引が持続する小野田 泰明(オノダ ヤスアキ)/建築計画学1963年金沢市生まれ1986年東北大学工学部建築学科卒業1986-88年同大学キャンパス計画室1998-99年カリフォルニア大学 客員研究員2007年-東北大学大学院工学研究科 教授著作(共著)オルタナティブ・モダン(TNプローブ)プロジェクトブック(彰国社)空間管理社会(新曜社)他プロジェクトせんだいメディアテーク(設計:伊東豊雄)(建築計画)横須賀美術館(設計:山本理顕)他作品苓北町民ホール(阿部仁史と共同:建築学会賞〔作品〕)仙台市営荒井集合住宅(阿部仁史と共同)伊那東小学校(みかんぐみと共同)他※1 PFI(Private Finance Initiative):公共施設等の建設、維持管理、運営等を民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用して行い、社会資本整備を図る手法。※2 辻本顕・小野田泰明・菅野實、日本におけるPFIの成立と公共建築の調達に関する研究、日本建築学会計画系論文集、vol.605、2006.07※3 QBS(Qualifications Based Selection):資質評価方式と呼ばれる設計者の選定方法。コンペなどのように案ではなく、設計者の実績、能力、人格などをもとに選定を行う。案にしばられずに検討を深められるメリットがある。日本での実現例は、横須賀美術館、伊那東小学校などまだ少ない。※4 冗長性:言語による伝達の際、ある情報が必要最小限よりも数多く表現されること。冗長性があれば雑音などで伝達を妨げられても情報伝達に成功することがある。余剰性。リダンダンシー。※5 ベンジャミン・R・バーバー(Benjamin R. Barber):1939年生まれ。政治学者、メリーランド大学教授。著書:『ジハード対マックワールド——市民社会の夢は終わったのか』(三田出版会)など。※6 阿部仁史、本江正茂、曽我部昌史、千葉学、小野田泰明他、"Office Urbanism",『JA』50号、新建築社、2003場合は信頼に基づいた後者のほうが安いこともありうる。最初の方で申し上げた冗長性の確保はもちろんのこと、突発的問題に対する創造的な解決策も得やすいというメリットもあるでしょう。また、クライアントはストック管理の問題も抱えているので、アフターサービスということで、それと連動したビジネスもあるでしょう。クライアントはそれも信頼できるところに任せたいと思っていますから。そういった「信頼」を看板にしたロングスパンのサービスには、意外と現代的合理性が高いと見ています。でも、小難しく言いましたが、結局これって「暖のれん簾」を守るということで、竹中さんがずっとやられてきたことなんですけどね(笑)。———本日はありがとうございました。(聞き手:永井 久夫・横堀 伸・垣谷 伸彦・ 重野 匠・眞鍋 展仁・岡田 朋子)Interview
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