DESIGNWORKS Vol.07
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Interview野城智也氏に聞く新しい環境時代へ向けて今回は「環境デザイン」をテーマに作品を掲載しています。竹中の新旧作品から、1966年竣工の文藝春秋本館と近作のフラッツ東陽をご覧いただきました。文藝春秋本館は40年間現役のロングライフ建築であると同時に、自然換気という環境技術の先進事例でもありますが、どのようにお感じになりましたか。身体スケールとシンプルな環境技術野城 文藝春秋本館は昭和41年、1966年竣工の建物とはとても思えない瑞々しさがあると思います。いわゆる竹中スタイルという正統的作品なのかもしれないけれど、それがやはり飽きないというか。もう42年も経っていても、きちっと長年の風雪に耐えて機能しているというのが大変印象的でした。かつ当時としては大変大きな開口部を持った開放感のあるオフィスだったわけですが、そこで今日でいうところの自然換気を入れてらっしゃるということも今日初めて知りまして、非常に先見の明があるなと思いました。当時はもしかしたら竹中の中でも設計者の方々が、ある身体感覚を持って設計ができた時代だったのかなという気がします。非常に良い意味でのコンパクトなスケール感というのでしょうか。意外にスペースが小さいだけに、オフィスとして一体感を持っているのではないかな。自分の場を、それぞれが作りやすいようなスケールだと思います。あのように使っておられる文春の取り組みというのは、同じ文化的な産業であるだけに建築文化に対する尊敬心を持って下さっているなと思うのです。また、使いつづけることによ搬送動力を使わない重力換気なり自然のエアフローなり自然光なりを使えるような空間構成を持っている。ただその空間構成を持っているってことが実際に空間の心地よさと結びついていくことによって、初めて価値が出てくるので、そこが肝だと思います。———フラッツ東陽も同様に小ぶりなスケールの建築です。野城 フラッツ東陽も、実は平面のスケールは文春とそんなに大きく違わないということが分かりました。いろんな意味で重要な示唆を与えてくれていると思います。今の集合住宅における投資の構造というか、予算の割り付け方がみんな当たり前と思っているのが、実は歪んでいるのではないかということを 気づかせてくれる作品だと思います。すぐに見える価値を窓廻りの居住性に置いている。フラッツ東陽のペリメーターのところにくる構造体というのは軸力を負担するだけの簡易な柱だけで、基本的にはコアの方に負担をかけるという考え方も非常に明確ですし、さらに免震されている。非常にシンプルだけど、 汎用性がある見事な解答をされていると思います。かつ、そういうシステムの適応範囲があるのですけど、今日のスケールはほんとにいいスケールだなと思いました。コアから外壁までの距離が短い特性を十分に活か して、フロンテージ(=間口)も非常に広い。規模は小さいのですが非常に豊かな空間を持っ ています。今日見せていただいた文春も東陽町も非常にダイアグラムが単純明快だけれども、単純明快 って逆に先進性を実現している気がするのです。非常に頑固にしてきたのだけども、ふと気づくと、先頭ランナーになっているんですよね。そこは本当におもしろいなと思いました。———今回の特集で紹介しようとしている物件には、最新の環境技術を盛り込むタイプが多いのですが、過去から学ぶべきものは 多いですね。野城 そう思います。文藝春秋ビルでは部分は主張していないでしょう?建替えをせず、今まで利用してきているのは、空間に力があったからなのでしょう。身体感覚にフィットしているのでしょうね。今のオフィスって窓際族といわれる人々は空間上はリッチで、大規模なオフィスって、コア族っていったら変なのですが、コア側で働いている人は窓から遠くてなんか左遷されているみたいだと思うのです。建物を大型開発だからと大きな平面形でつくっちゃうことがあるのかもしれませんし、そこに今度は重装備で設備を入れていく発想にすぐなってしまうのですが、文藝春秋ビルが持っているような空間をモデュールとして、その単位を積み上げていくような大規模開発というのもあると思います。あくまでも人にとって心地の良い、力のある空間。文春のように結果的なのかもしれないけれども40年50年そうやってサービスを続けていけるような空間の力がまずあって、非常に単純にその力が目に見える。こういうのってやっぱり賞味期限が長いのだと思うのですよ。加えて、できるだけ化石燃料を用いた文藝春秋本館フラッツ東陽写真:小川泰祐Interview

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