DESIGNWORKS Vol.07
8/36
———その一方でエンジニアリングの価値を伝えようとしても、エンドユーザーに理解されにくいという、もどかしい構造があります。野城 エンジニアリングそのものの価値を社会にわかってもらうということは、人々に創られた建築の生み出す快適さの価値を、五感を通じて、また、いわゆる見える化による データ表示によって、実感していただくことです。また、その建築に使われている要素技術の働き・役割が建築を使っていただく方にわかりやすいことも、エンジニアリングの価値を理解していただくきっかけになると 思います。現在はシミュレーションが主体で、本来はその結果のバリデーション(=妥当性の検証)をするべきなのですが、それがあまりにもなされていない。やはりコミッショニング(=性能検証)というのは大きな領域だと思うのです。コミッショニングというのは設備など機械・メカ屋さんの専門領域と誤解されていて、その領域に留まりすぎているのだけど、今日見たフラッツ東陽の自然換気でいえば、人々が換気ルートをちゃんと開けているかどうかとか、もし開けた場合でもそれはどのくらいの効果が出ているのかということを継続的にモニタリングし、設計と違うとすればどうすればいいかっていうすり合わせをしていく必要があると思うのです。ちょうど自社物件でモニターもたくさんいらっしゃるでしょうからそこからフィードバックされ出来上がってくる知識は、大変貴重だと思いますし、可能性があると思うのです。防犯上、管理上どうかというその住宅管理方法が絡むある種の社会実験センターでの取り組みは環境技術の価値を伝えるよい機会でした。野城 北海道のあそこでやったからこそ雪を使ったりしますよね。当然それが砂漠に行ったり、違う環境に行けば違うモデルとして、きっとあのアーキテクチャーのパッケージは利用できるということなんですよね。環境分野って、僕はイノベーションの塊だと思います。既存の固定概念の殻を破っていかねばならない世界だと思うのです。例えば太陽熱利用でお湯を作る技術があります。鏡がたくさん入っていて集熱するので、90度くらいになるのです。それが吸収式で冷房にもなる。ヨーロッパでは屋根の半分が太陽光発電で、見た目は同じなんだけどあとの半分がその太陽熱利用の方で、それを組み合わせたオートノマス(autonomous:独立した)住宅とかをガンガン造っているそうです。アフリカの真っ平らなところに持っていっても、インフラなしで冷房ができるわけです。環境技術って発想を変えなきゃいけないかもしれない。複雑な技術がいいっていう発想を1回リセットした方がいいかもしれませんね。むしろ、単純で明快、簡素簡明な技術がいい。長期間有効に機能させる意味でもね。そういう意味でも文春のぺリメーターの自然換気口を今日開けても、ちゃんとスースー風が通るっていうのは、あれはなんともいいですね。———サステナビリティという言葉も今では社会的に広く認知されていますが、建築におけるサステナビリティというものをどう捉えていらっしゃいますか?は自社物件じゃないとむずかしいですしね。みなさんのやってらっしゃることっていうのは比較競争性を持っていると思うのです。国内でもあるのでしょうけど、海外の場合、エンジニアリングが生み出す価値を提供することが求められているのだと思います。エンジニアリングのほうが、契約条件が難しいところもありますが、少なくとも請負工事を海外でやるよりはるかに固定経費がかからず効率がいい。行く人が3人か4人だけでもものすごい売り上げになる。だから実際、アラップ※5 など能力の高いエンジニアリング会社は世界中でやっているのはそういうことですよね。そういうまさにアーキテクチャーを作る力、あるいはエンジニアリングの力っていうのがもっと真正面に出てくるべきであると思うのです。重要なのは誰がオーディエンスかですよね。建築のプロフェッションのコミッティの中ではこういう言いかたをする。住んでくださっている方には、例えば快適性の持っている従来無かった価値というのを居住感に訴えかける。自分たちが作り上げ実現したこと、もの、空間を説明する言葉を誰がメッセージの受け手かによって、個々に用意していかないといけない。みなさんがそれを説明する言葉を見つけさえすれば絶対世の中は捨てておかないと思うのです。自分たちがやっていることを説明する言葉っていうものが、時代のキーワードになっていくということが大事だと思うのです。いまサステナビリティとは———北海道洞爺湖サミット国際メディア Interview
元のページ
../index.html#8