DESIGNWORKS Vol.07
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野城 サステナビリティっていうのは、大事な言葉だと思います。ただ注意しなければならないことは、建築は本質的にサステナブルではないということです。人工物を作っていく限りは、それはやはり環境負荷。環境負荷っていう言葉が最近インパクトがなくてフットプリントという言い方をする人が多いですけれども、やっぱり足跡、踏み荒らすというか。物を造ることで、世界の地面を、環境を踏み荒らしていることは事実なのですよね。過度にサステナビリティを強調することによって思考停止するのは僕はかえって問題だと思っています。正確にはサステナビリティではないんだけども、できるだけサステナビリティを脅かさないように配慮したい、というのがエンジニアとして考えるべきことで、それを錯覚してはいけないのです。だけど、いやだからこそ、シナリオは必要です。そういう意味では、Less-unsustainableっていうのかな、そういうことを探求していくことがエンジニアとしては大事だと思います。逆に、これからは化石燃料を使わないと建物の基本性能すら維持できない建物は最もアンサステナブルな建築だと思うんですよね。ある意味建築のサステナビリティっていうのは擬似だとは思うんですよ、本質はね。じゃあサステナブルじゃないから何でもありねっていうのはだめだと思います。エンジニアとして、やっぱり自然科学的に思考して自分たちのエンジニアリングの目標を冷静に決めていくべきということです。基本をはずしちゃいけないし、それが竹中の「正道を履み、信義を重んじ堅実なるべし」という社是と重なるんじゃないかなと思いますね。竹中工務店の「工務店」という意味合いは、「エンジニアリング会社」ということだと思っています。それをゼネコンとして、他社と同じにするとせっかく持っている特質がなくなってしまう。40年前に文春をつくった時は、「作品」という言葉で、ある独自性を出していらっしゃったのでしょうけど。今日その独自性っていうのは基本的には、連綿と繋がっている。ただそれは、建築に関する雑誌に作品として出ているという形での表出以外に、やはり自分達の作り上げたものがいかに、人間にとって、 あるいは人の活動にとって居心地の良いもの、愛すべきものをつくりあげているかということを、もっと広いコミュニティーの中で解って頂くという様なサークルを造るということ。それは単に新築の建物だけでなくて、先ほどのコミッショニングみたいな仕事でおやりになるとか、あるいは、ロジスティックスの管理をするとか。ロジスティックスの管理というのは、まさにプロセスのデザインをすることで、これからますます対象範囲は広がっていくと思うのです。そういう表出の仕方というのはたくさんあるし、それらは未開拓だと思います。———今日はありがとうございました。(聞き手:水野 吉樹・横堀 伸・重野 匠・田中 幹人)野城 智也(ヤシロ トモナリ)/工学博士1957年東京都生まれ1985年東京大学大学院工学系研究科建築学科専攻博士課程修了1985年-建設省建築研究所1991年-武蔵工業大学建築学科助教授1998年-東京大学大学院工学系研究科社会基盤工学専攻助教授1999年-東京大学生産技術研究所助教授現在東京大学生産技術研究所教授・副所長著書「実践のための技術倫理〜責任あるコーポレート ガバナンスのために」(共著・東大出版会)「サービスプロバイダー 都市再生の新産業論」(彰国社)「サステナブル建築の政策デザイン」(共著・慶応義塾大学出版会)「都市この小さな惑星の」 (共訳・鹿島出版会)ほか多数※1 スケルトン・インフィル:建物を構造体などの耐久性の高い部分(スケルトン)と、比較的容易に変更できる内装や設備(インフィル)とに明確に区分することで、インフィル部分(集合住宅においては各住戸)の設計自由度を高め、かつ更新を容易として長寿命化を図る考え方。※2 サステナビリティ(sustainability):生物資源(特に森林や水産資源)の長期的に維持可能な利用条件を満たすことをいうが、広義には自然資源消費や環境汚染が適正に管理され、経済活動や福祉の水準が長期的に維持可能なことをいう。持続可能性。※3 ロジスティックス(logistics):もともと軍隊で武器、食糧などの補給を行う兵站の意味であるが、その考えを物的流通に当てはめ、単に物流部門の局部的な効率化を図るのではなく、原材料の調達、生産、保管、販売、情報などの全体的な流れを総合して、総合的なシステムとすることを意味する。(基本ロジスティクス用語辞典[第2版]白桃書房より)※4 トレーサビリティ(traceability):物品の流通経路を生産段階から最終消費段階、あるいは廃棄段階まで追跡が 可能な状態をいう。追跡可能性。※5 アラップ・アソシエイツ(Arup Associates):総合エンジニアリング・コンサルティング会社。ロンドンに本社をもち、世界37ヶ国の85を超える事務所で約9000人のスタッフが働く。「ポンピドゥー・センター」「関西国際空港ターミナルビル」「北京国家体育場」など、多くの建設プロジェクトの構造設計を手がけている。Interview
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