DESIGNWORKS Vol.08
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Interview中川武氏に聞く本号は、業務研究生産系の作品を主に取り上げています。竹中デザイン分析と今後のあり方、そして歴史的視座からの建築の可能性について、お話を伺いたいと思います。中川 どうしても竹中工務店の設計施工作品というと、見るほうもかまえてしまい、期待する部分もあります。東京本店社屋オープンのときに拝見して以来、久しぶりでした。作品それぞれに個性があり、面白かったというのが第一印象です。アステラスですが、非常に大規模な建物を高い精度で、高品質・シャープに流動的なかたちにまとめあげていることは竹中の新潮流のひとつと感じました。竹中という組織の実力が出ていると感じました。洗練され、高度化されることは良いのですが、同時に大地性みたいなものをいかに獲得させるかが、やっぱり課題だと思います。つくばの大地や自然とのつながりがもっと表現できていれば、良かったのではないかと感じました。イナータスは、小さなオフィスと住宅が一緒になったことで、独特の建築になり、いい見所だなと感じました。その中で重要な役割をしているのが、穴開きパネルで構成されるファサードです。街路との関係、視線の抜けなど、非常に多様なものを、こねくりまわすのではなく思い切りの良さが効果的です。スケール的にもデザインメソッド的にも表現的にも、まわりの街と上手く調和しつつ、かつ主張していると思いました。スカパーですが、中央の大きな吹抜空間を「宇宙へのクレバス」としたという説明を聞き、なるほどと思いました。ただ、この空間の上めていくと、「野性」からは遠ざかっていきます。技術的にも形態的にも素材的にもですね。特に大きく多様な組織のコラボレーションを重視すればするほど、その傾向があります。建築はやはり大地との関係だと僕は思っているんです。21世紀はそういうものが改めて求められてくることは間違いないのではないでしょうか。また建築はいきなり新しくなるのではなく、大部分は継承的なものだと思います。しかし継続の仕方が少しずつ変わってくるのでしょうが、建築家が主体的に本質的な何かを求めることで、本来的になっていく建築の進歩もあると思います。21世紀の建築は、高度になっていくのが目的ではなく、大事なものを回復していく方向に向かっていくのではないでしょうか。ローテク的な素材や技術に見えるけど実は非常に高度なものが、これからの大組織やゼネコン設計部の勝負していく重要な課題だと思います。———組織設計として建築の本質的な部分にもっとチャレンジする意思が必要ということでしょうか。中川 僕は、ゼネコン設計部を評価しているんです。それは建築を作り上げていく技術や組織というバックボーンをもっているからです。「普ふしん※1請」なんです、「広く普あまねく請う」。人々が欲しているものをいかに実現していくかというところが請負業の本質的なところ。しかし大きな組織になると本質が少し希薄化する場合がある。それは、建築を作り上げている条件に対してどう対応していくかというところに、自分の全生命っていうか全比重をかけにアンテナを載せトップライトから見せるのはよいアイデアだと思いますが、人と宇宙がダイレクトに繋がる仕掛けがある空間だったら、もっとよかったのではと思いました。非常に単純なことかも知れませんが、すごく重要なことだと思います。世界を画像や情報技術で理解する前に、宇宙とダイレクトに感応するとか、省エネ的に環境を考えるだけでなく、暗闇の中でものごとを感知することができるようなことを、僕は象徴的に「野性」と呼んでいるのですが、「野性」の回復のために組織の技術的な支援ということが、これから大事になってくると感じます。一般的にゼネコン設計部は、総合的な技術陣の支援があり高性能に進められている。竹中の場合、それに加えデザインがどう表現されているかということが、見る方としては関心があります。大きな組織や技術に支えられた設計は、優位な面も多く、精度と洗練度が高くなります。それはいいところですが多分欠点にもなると僕は思っています。非常に高度で精度の高い技術だけど、野性的なものであり、手触りや懐かしい素朴性を持っているものが、形の上でも素材の上でも自然との関係でも、ますます求められてくるのではないかなと思いますね。建築のもつ「野性」の回復———建築の多様な要求に対する高度な最適解のみに始終するのではなく、組織設計としても、建築本来の持つ「野性的な部分の回復」への取り組みが重要ということですね。中川 はい。どうしても、高性能なものを求竹中工務店 東京本店アステラス製薬筑波研究所新棟撮影:小川泰祐21世紀の建築と組織設計-野性の回復と高度化する建築Interview

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