DESIGNWORKS Vol.08
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家の役割なんじゃないかと思います。またそれをわかっていて、実践していくかどうかだと思います。要するに、日本の中世的な伝統や近世的なものを踏まえて近代に入ってきた。だから日本の中世や近世っていうのはなんなのかということをきちっとね、自分たちで勉強することが竹中工務店設計部の伝統になりうるのではないかと思います。東京23区内の唯一の重要文化財なのですが、目黒に鎌倉時代につくられた円融寺釈迦堂があります。これはほんとうに素晴らしいです。なぜこの建築がそんなにすばらしいのかは、中世の秘密ですね。江戸時代、近代化すると構成が表層と骨格に分かれます。その総合性をもっているデザインが桂離宮です。修復しているとき、骨組みだけの状態で何回か訪れ、出来たときにも行きました。骨格だけのときは単なるあばら家なのですが、全部出来た後の内部空間はすばらしい。建築のデザインってこんなすばらしいものかと思わせます。やっぱりデザインの力ってすごいなあと思いますね。近世がなぜ近代に近づいたかというと、軸組みと造作っていうシステムを考え出したことにあります。近世の建築の形式を作り上げたのです。そのことによってはじめて、中世までは1回性の固有のシステムであったものが、近世で初めてそのシステムが住宅から寺院にまで出来たことによって、日本の近世の建築生産が莫大な発展をしたのです。社会的な水準の質をあげ、近代を作っていくのです。歴史的にみると建築家の役割はある意味で、その時代の形式を作り上げることにありました。しかし、現代における形式として今どういうものを作るべきなのかと考えると、実はそうではないのではないか、と思います。むしろ、歴史的に出来上がってきてそれ以上どうにもならなくなった物を解体して、何か本質的なことに戻り、これこそが重要だってことを提示しないと、現代になっていかないのではと思います。———ゼネコン設計部は、やはり生産が重要なデザインテーマのひとつです。生産技術も進歩します。そういう背景のなか、今後どういう社会的役割を担っていくべきとお考えですか。中川 社会的な進化や発展の中で、個人では対応できないこと、無視できないことが多く出てきています。ある意味ではそういうものを断念しながらやっているのだけれど、それをコールアップしながらやっていけるってことが組織の強みであることは今も変わらないし、必要になってきています。そのことが決して本質的で重要なことを保証するのではないので、ここに難しさがあるのだと思います。もっと素朴に、個人が全体への責任を持たなきゃいけないとかね。そういうことの重要さと、多くの人の協力なしにはやっていけないことの必要さと、両方あるってことだと思う。だから組織的なものの強みを活かしながらも、個人としてのたくましさ、全体性の確保の回復をやり遂げていくことが、他に出来ない可能性と言えるのではないでしょうか。———本日はありがとうございました。(聞き手:関谷 和則・秋山 裕子・岡田 朋子・日野浦 理沙)円融寺釈迦堂中川 武(ナカガワ タケシ)/建築史家1944年富山県生まれ1967年早稲田大学理工学部建築学科卒業1977年エジプト・ミニピラミッド建設実験に参加以来、ピラミッド調査と並行して、アジアの古代 建築の調査を継続1984年-早稲田大学教授、工学博士専攻は比較建築史、アジア古代建築保存修復1991年-ベトナム・フエ王宮都市の調査研究1994年-日本国政府アンコール遺跡救済チーム(JSA)の団長を務める現在日本建築学会副会長、早稲田大学理工学術院教授、 早稲田大学総合研究機構・ユネスコ世界遺産研究所所長保存修復技術の国際協力により、1998年カンボジア・サハメトレイ王国勲章2002年日本建築学会業績賞2006年早稲田大学大隈学術記念褒賞等を受賞※1 普請 ふしん:家を建てたり修理すること。建築工事。普く(あまねく)大衆を招請して均等に労働作業に従事すること。Interview

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