DESIGNWORKS Vol.09
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Interview土居義岳氏に聞く伝統の再生とこれからの都市本号では都市における商業施設とさまざまな展示施設を掲載しています。インタビューに先立ち、非日常的な都市機能としての東京 ドームシティ MEETS PORTとシルク・ドゥ・ソレイユ シアター東京を、伝統の再生を試みている作品として薩摩伝承館を視察して頂きました。まずは薩摩伝承館の印象を伺いたいと思います。リバイバリズムの意味土居 薩摩伝承館の写真を見たときに手前に池があるし、鳳凰堂みたいだなと思いました。お施主さんの要望がそうだったんですね。外国人の日本イメージでもあります。1895年のシカゴ博で、平等院鳳凰堂のような日本館ができ、フランクロイドライトに影響を与えました。そういう日本的イメージですね。別の例ですが、磯崎新がオーランドにつくったチーム・ディズニー・ビルディングも、池に面し、中央が強調され、左右にウィングが伸びる形式です。これも「日本的イメージ」だとどこかで言った覚えがあります。その系譜だということで面白いですね。ところで宮大工が造ったのは「組物※1」のほか、どこですか?———組物から垂木、軒裏につく造作関係 などです。土居 写真ではわからない部分ですね。でもちゃんと六支掛けになっていたし。宮大工の参加というアプローチは面白いです。現代の技術だから、天平の甍(いらか)そのままにはなりませんが、宮大工のオーセンティシティ歴史は繰り返されるけど、先例を入れ子状に取り入れています。意味は違うかもしれないけど10年ぐらい前に「再帰的近代化」ということがいわれました。単純な前近代/近代の相克というようなことはすでに終わり、近代化のプロセスが自覚されて繰り返される。伝統の解釈というのは、過去との対話を、もう一回読み返していくということだと思います。伝承館では、逆にモダニズムに対してはどう対処したのでしょうか。スタディのターゲットを限定したうえで、全体も考慮されている。とくに「柱」に注意が行きますが。下が抽象、上は具象、もありかなと。下は完全にモダン、上は伝統、そういうレイヤーの重層ですよね。それほど明快でなくとも、力学がはっきりしているのは神社建築的ですね。斗栱は斗栱で成り立っている。———斗栱が力学的に成り立っているのではなくて飾りとして吊られているのに、逆にそれが本物に近い洗練をしています。土居 リアルとフェイクの反転、ということでしょうか。柱も、RCとしてリアルでもあり、かつ天平の甍の時代の木の柱のようにも見えます。斗栱は宮大工が作ったかなりリアルなものだけど、構造的に吊り物だからフェイクだし。リアルとフェイクがまさに反転しています。でも現場に来ないとわからない。写真では大部分がコンクリートのように見えます。———薩摩ブランドというのは逆輸入のブランドなので、薩摩焼を展示する内部空間には西洋の文化をあえて取り入れています。をゆだねつつ、現代の部分もある。その共生のしかたが柱の上と下でスパッと分かれています。また組物は中世の一手先組※2を参照していて、一種のリバイバリズムですね。ヨーロッパのゴシックリバイバルはというと、最初は装飾的で、18世紀は雰囲気だけの再現でしたが、19世紀になると研究が進み、様式もプロポーションも正確になります。かつ作家性もあらわれる。様式は細部の正確さと、全体のテイストの調和です。スタイルを深く理解すれば、逆に恣意性も可能になります。———ヴィオレ・ル・デュク※3なんかはまさにそうですよね。土居 あの人は原理を極めたから。原理を極めつつ、様式とは統一だといった。統一というのは機械的な判断ではなく、鑑識眼です。ヴィオレ・ル・デュクが言った様式とは、機械的判断でもなく、チェックリストでもなく、総合判断なんですね。ところで100年くらい前に「東洋趣味」が喧伝され、アジア風または日本風の復古様式でつくられましたが、じつは様式的にはあまり正確ではありませんでした。近代か東洋趣味か、つまり陸屋根か勾配屋根かという論争がありました。でも復古派もあまり理論的ではないし、近代派も陸屋根しか言わない。論争は激しかったけれど、レベルは低い。逆に、100年ぐらい経った今は、研究は進んで様式は正確に理解されているし、現代建築の工務店が宮大工と交流できる。やろうと思えば正確なことができるようになっています。それからリバイバルのリバイバルでもあります。薩摩伝承館写真:伊東浩Interview

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