DESIGNWORKS Vol.09
5/36

土居 つまり陶器がインテリアをかたちづくっているということですね。すると美術館や宝物館としての展示方法も考えますよね。日本だと床の間、海外だと居間、暖炉の部屋といった展示空間。近代の博物館は、本来は住空間にあるものを空間カタログにして一気に見せる。近代において日本美術はいわば逆輸入されました。そこに西洋的観点がはいってきている。そこにモダニズムと伝統の複雑な関係がある。壷とか瓶とかを展示するという行為、組物を一つ一つ丹念にオーセンティックに作ってゆく。完全な復元はできないし、組物は展示オブジェなんだと明言されているようです。屋根の形状が、下のものをこの場所に定着させていると強く主張できているようでもあります。伝承館は、写真映りは日本的で伝統的ですがよく見ると西洋を経由した日本であり、西洋を鏡とした日本的なものであり、そういう往復運動から生まれたということがわかって、ちゃんと成り立っていて、ものを考える上でいい機会だったなと思います。———清澄寺資料館は屋根から下の部分をモダンに作り、そこに半ばアイコン化されたような伝統的な屋根を乗せています。土居 外観はモダンと伝統のレイヤーがはっきり分かれていますね。難しいのはおそらく回廊の軒下の部分、エクステリアとインテリアの境目、トランジショナルの部分です。レイヤーの区別は遠くからは明快に見えます。でも、軒下はフラットな材でやっているんですね。だからそこを歩いていても、瓦屋根の下という気がしません。インテリアは壁まではモダンで洋風だから、屋根だけは伝統的といっても、よくわからない。外の列柱の並びが、本来は内部と外部の境界であるはずです。しかし実際はその内側にガラスがあります。ですので、この回廊空間はここはどこって感じがします。遊離した第三のもの、異質なものが介入してきたという感じですよね。歴史的な建築といってもね、構造と空間が一致しているのが中世末までです。だから近代的なハイブリッドだということですね。スパンを変えると三間堂に近くなる。———福寿園京都本店ではガラスの内側に開く蔀戸が取り付けられています。土居 空間は近代だけどテクスチャーが伝統であるという読み取りやすい構図ですね。京都ということで思い出しましたが、この前、目黒美術館で上野伊三郎+リチ コレクション展を見ました。伊三郎さんは人脈力があってタウトを呼んだり建築運動をやっていた。「京都力」なんですねえ。リチさんの方は芸術的な才能があって、村野藤吾との仕事で壁紙をデザインしたりしています。ウィーンゼセッション※4的な平面的デザインに、京都的な雅の世界を融合させている。これも京都力。福寿園はファサードの柱・梁の格子と、内部の蔀戸の格子がフラクタルな関係にあることが意識されて構成されていて、良いですね。都市の博物学とパフォーマンスの場———東京では後楽園地区に建つ東京ドームシティ MEETS PORTを視察して頂きました。土居 福岡に帰るときに、飛行機から丹下さんのホテルが見えました。ちゃんと皇居の方を向いていました。丹下さんなら地図を見なくても皇居の方角はわかる。後楽園はアドホックなごちゃごちゃですが、丹下さんが超越的な秩序を与えた。これは全体で「公園」なんですね。大名屋敷のモザイクであった江戸を基盤として、東京の大学や公共施設や遊園地なんかができた。後楽園は、もともと水戸家の下屋敷、そして陸軍の砲弾庫所だそうですね。武家地、陸軍、武道館、柔道着店、いまの格闘技やプロレスのメッカ、など武闘つながりでしょうか。そんなものを引きずった都心の遊園地ですね。都市計画公園だから、人工地盤の線が決まっていて、建物はその下です。アプローチは観客席上部へとつながる。軽やかな筒状の形態は、都市からみると交差点にあるランドマークですが、公園からみると遊び心のあるフォリーになっている。その二重性によって都市/公園をうまく関係づけています。西洋の庭園にはよくフォリーとして古代の円形神殿のレプリカが建てられますよね。そんなものを連想させます。竣工してみると、これしかない解法だと思えます。構造的には、下にあるホールと縁を切るために、カンチレバー式だということをうかがいました。公園側としてはそのカンチレバーを強調して、トリッキーな見せ方をしたら、よりフォリー的かなとも思いました。外国の公園は、防犯上、夜間は閉めますが、ここは夜もずっと開いている。都市空間の使い方としては特殊なものですよね。都市の見えない臍ですね。それから後楽園はスーパー清荒神清澄寺史料館福寿園京都本店東京ドームシティ MEETS PORT写真:古川泰造写真:(株)ミヤガワ写真:古川泰造Interview

元のページ  ../index.html#5

このブックを見る