DESIGNWORKS Vol.10
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型建築のコンセプトモデルが求められている。建築は大幅な環境負荷低減の達成が必須であり、その為の画期的なエネルギー技術や資源循環技術が開発されなければならない。2050年の建築がどのような技術によって支えられているか、これが一つの見どころである。新素材・新技術が触媒となって新しい空間を創る。「WATER X」では、バイオナノファイバーというスーパーマテリアルが構造体にもなり、外皮にもなる。強靭な素材が自由な空間構成を可能にし、光や風を取り入れる。毛細管のような素材の中を水が自然に循環し、パッシブに室内の気候調整環境調整をおこなうという提案である。重要な役割を担う水は、この地域・水都大阪に賦与された自然のポテンシャルであり、地域特性を生かした提案としても位置付けられている。「PENETRATION CUBE」もGRP(グラスファイバー補強プラスティック)という再生可能素材をベースに展開した提案だ。自由な架構と構造から解放された外皮が、外部と内部の応答的な関係をつくることを可能にし自然を呼吸する。人間が感ずる内部空間の質を強調しているのもよい。「BIOMIMETIC FACTORY」もカーボンナノファイバーの多様な特性をもっと直接的に表現している。沿海部のかっての工業地帯の再生利用を提案したものだ。ここでは構造自体が、太陽と海水をつかって光合成をおこなう樹木であり、林なのである。広大な空間の用途を限定しなければさらに都市計画的なあるいは国土利用計画的な意味づけができたのではないか。「un-wrapped city」は解体される建物をブロック状に切り出し、再びドームのように組み上げる。生産に焦点を当て建設廃棄物となる資源を直接的に再利用する提案だ。既存都市や建築ストックをどのように生かすことができるか。これが二つ目の重要な点である。「杜と人とのスリムな建築」は、緑豊かな街路と街路に面するビル群との間に緩衝空間を設け、ビルと街路の関係、人と自然の関係を活性化させようとする提案だ。様々な使い方を提案し、街のアクティビティを引き出すと共に、街並みの景観向上に貢献し、また室内気候調整にも役立てようというアイデアが面白い。歩道を狭めるのはどうかとの意見もあったが、雁木のような公共性を持たせることが可能かもしれない。既存建物ストックの分野でも魅力的な提案が多くあった。高機能部材や先端的構造技術、ファサード技術を駆使して既存建物の減築、増築を施し、内部空間を活性化しながら、かつ省エネルギー化をはかる提案である。この分野から入賞がなかったのは後からみると意外な印象もある。良い提案があったことを特記しておきたい。自然の光や風を活用してパッシブなデザインをし、高効率の設備技術と統合することは今後の持続可能な建築に不可欠な視点であるが、地域の自然的、文化的特性を読み取り、環境のポテンシャルを発見することが必要だ。「AQUA DOMINOES」はこの基本的なアプローチが評価された提案で、バンコックのバナキュラーな建築アイデアに学びながら、熱帯における無空調リゾートオフイスの実現を意図する。冷房技術が急速に普及し、その省エネの為に外部との遮断を強める気配もある東南アジアだが、その先ではこの提案でみられるデザインと技術の開発が強く求められる小玉 祐一郎(コダマ ユウイチロウ)/建築家・工学博士1946年 秋田県出身1969年 東京工業大学建築学科卒業1976年 東京工業大学大学院博士課程修了、同大学助手1978年 建設省建築研究所主任研究員・室長・部長1998年 神戸芸術工科大学 環境・建築デザイン学科教授 (株)エステック計画研究所主宰2000年 環境・エネルギー住宅賞(IBEC)2003年 JIA環境建築賞2005年 日本建築学会選奨・グッドデザイン賞と考えられる。日本の先端的ノウハウを生かす場であろう。最優秀賞を得た「LOCAL ENERGY STATION」は、以上で述べた評価の視点とはやや異なる評価がされた。確かに先端的素材や技術の提案もあるが、それでは括れない構想の大きさが評価されたように思う。2050年は現在のトレンドでは予想できない部分がある。そんな時には我々はどのような都市や建築を望んでいるか、どのようなライフスタイルや快適さを望んでいるかが強く問われるわけだが、この提案にはそれがあるように思われる。都市に比べ農村の未来イメージは像を結びにくいが、それ故提案が求められているともいえる。その戦略が当たったのか審査員の全員が一票を入れた。総合産業としての建設業の新たな分野として位置づけられるという意見もあった。持続可能性という言葉には、現在のパラダイムや性能を維持しながら省エネルギー・省資源を行うという後ろ向きのイメージが重なる場合がある。しかし、省エネルギー・省資源という制約は、逆に新しい建築や都市のイメージを喚起し創造するものだ。竹中環境コンセプト建築コンペではそれを裏付ける多くのアイデアの萌芽が提案された。デザイナーもエンジニアもそのポジティブな意義を共有する格好のきっかけとなったのではないか。※4:Renewable Energies in Architecture and Design※1:建築関連の5団体(日本建築学会、日本建築士会連合会、日本建築士事務所協会連合会、日本建築家協会、建築業協会)が2000年に、地球環境時代に目指すべき建築のあるべき姿を取りまとめたもの。※2:地球温暖化防止のため、先進国の2000年以降の対策強化を目的に京都で行われた会議のこと。京都議定書が採択された。※3:2009年9月国連気候変動首脳会合で鳩山由紀夫首相によって表明された温室効果ガス削減の目標数値。03Special Issue

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