DESIGNWORKS Vol.11
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ディトリアムがありますよね。パブリックな空間にオープンな形で設えられている。しかも川に面して開放的な低層部分がデザインされている。このことが都市の中のオフィスビルとしてはとてもおもしろく、今まであまり例のなかった計画だと思いました。日産という企業が、ここが原点の場所だということで,場所性みたいなものを作り出すのに貢献したいという気持ちが強いということがとても大事なことだと思います。ただ、周りがこれからどのような環境になるかが気になります。ここはとてもうまく作られているけれど、抜けた先がどうなっていくのかなっていうところが、なかなか難しいところがあるでしょう。̶̶̶今はまだ周りにはほとんど建物が建っていませんが、まず日産が建って、それに対して応答するような建物が形作られていくかどうかですね。松村 隣にまったく違うコンセプトのものが建って、都市が形成されていってしまう。そこに何か約束事があるべきなのではないかと思います。それにはクライアントどうしの意識の変革も必要かもしれません。建築に関わるさまざまな主体がそれぞれ望んでいることが、相乗効果を生むようにするのにはどうすればいいんでしょうね。理想的な環境を生み出すようなコミュニケーションのあり方がきっと問題になってくるでしょう。個別的な建築を生み出すコミュニケーション̶̶̶そのような構造的な問題がある中で、少し視点を変えて既存の建築ストックにどう向き合うか、という問題を考えてみたいと思います。今回掲載の「ひばりが丘団地ストック再生実証試験にかかる共同研究」に関して、どのような印象を持たれましたか。松村 世界的に見ても非常に高い耐震性が必要とされる国で、このように大掛かりに改修するという例はなかなかないですね。しかも改修する建物は耐震基準を満たしていなかったり、改修すると満たさなくなる条件のものです。そういう意味で既存の梁を取り払って扁平梁にしたり、かなり思い切った改修実験をしていると思います。̶̶̶これからこのような技術開発がどのように実用化され利用されると思われますか?松村 この分野が面白いのは個別的であるということなんですよね。15年くらい前にヨーロッパではたくさんこのような実験的な改修が行われていたので、事例を調べに行きました。フランスにはHLMという官民連合組織があります。日本で言うと都市機構のような存在で、多くの公共住宅を建てて改修も行ってきました。そこでこれまでにやってきた再生事業をまとめた技術マニュアルのようなものがあるかどうかを聞いてみました。そうすると、HLMはかつてそのような演繹的なアプローチで改修計画をしていたことがあります。しかし今ではそのように再生事業を分類化するような方法は行っておらず、すべて個別に対応しているというのです。まったく同じ建物であっても違う地域に建って、それぞれの日産自動車株式会社グローバル本社個性のある人たちが住んでいるものだから問題も違ってくるだろうというのが理由です。日本の場合でもきっとそれは同じことが言えて、例えばある技術は壁式のタイプのものにはありとあらゆるところで展開できるかも知れないとまずは考えるわけです。しかしやっぱり個別に対応していく要素技術だとか、あるいはそれを組み合わせる方法とか、あるいは施工で得られた様々な知見が大切だと思うんですよね。例えば施工時の騒音の問題もあるでしょうし、あるいは仮設計画はどうするかという問題とか、これがもし「居ながら改修」にしたらどうするのかとか、そういう経験の蓄積がものを言うはずだけれども、決して同じ方法が次も同じように適用できるっていうことはないだろうと思います。̶̶̶技術的にはどんなことでも可能になってしまう状況で、一般の人を巻き込んで再生事業を活性化させるには、いかに既存の建物にしかない固有の価値を見出すかが大切かもしれません。今後このような個別解としての再生事業はどのように展開されていくのでしょうか。松村 この業界は、元気が無くなってきているでしょう?それはやはり仕事が減ってきているからです。産業として元気を出すためには新しい血を入れなければいけないと考えています。それは今までこの業界に関わってない人たちで、住宅の分野であればそれは利用者である住民自身です。従来住民はあくまでお客さんであって、生産者が住宅を供給していくというスタイルでしたが、これからはそう写真:(株)エスエス東京 石井哲夫03Interview

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