DESIGNWORKS Vol.11
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ではない。一部では建築の専門家ではない人でもやろうと思っている人もいる。そういう力をどのように誘導して、活気づけていけるかということがポイントですね。利用者が考えていることとか、利用者が魅力を感じるような事柄をどんな風にプロジェクトの中に導入していくかが問われています。一過性のワークショップで終わってしまうのではなく、専門家が少し手助けして力に変えてあげるような仕組みができればいいのですが。̶̶̶ヨーロッパの団地再生では、住民が自発的にアイデアを出して話し合って案をまとめていくというイメージがあります。松村 そのための打合せの回数がものすごいですね。スウェーデンのストックホルムで行われた再生事業の話を聴いたら、設計事務所の方が、会合を重ねて色々住民の話を聞いたそうです。いったい何回ぐらい会合をやったんですかと聞いたところ、何年もかけて400回の会合を行ったとのことです。打合せの度に10ヶ国語程度の資料を用意していたそうです。様々な国の人が移民として住んでいるのですね。そうするとその金は一体どこから出たのだろうという疑問が湧きます。そこでは公的資金が出ていたみたいですけどね。̶̶̶やはり公的資金が投入されないと、住民参加型のものづくりは難しいのでしょうか。松村 あまり公的資金に頼ってばかりでは未来がありませんが、やはりそういう面はありますね。また、ヨーロッパの場合賃貸居住者また、日本の場合は戦災があったので建築ストックというのはほとんど戦後のもの、ということになるんですが、それでももう60年経ったものが出てくる。そうしたときにその建物の価値を見抜き、適切な方向に再生を計画することで文化的な基盤ができてくるといいと思います。それを後押しするのもやはり建築の専門家の仕事ですね。コンピュータースキルと人材̶̶̶いま建築の生産現場の中に、情報技術に強い人材が不足しているのが現状です。もともとそういう職能ではないので当然のことかもしれませんが、これからそういったスキルを持った人材がどんどん入ってくる可能性があるのでしょうか。設計サイドにせよ生産サイドにせよ、情報技術との付き合い方はどのようなものであるべきだとお考えですか。松村 私の先生である内田祥哉先生がお若いときに同じような問題を考えていらっしゃったようです。当時プレハブ住宅メーカーというものができてきて、そこの技術者はほとんど機械専門の人だった。なぜ建築学科を出ていない人でもできるんだろうと。建築学科を出た我々と、機械学科を出て住宅メーカーで開発している人とは最終的に何が違うんだろうと一生懸命考えた。それで結論は、最後に自らの手で一筆いれられるかどうかだと。建築専門であっても機械専門であってもきちっと仕事ができるという意味では一緒。だけど最後に命を吹き込むように、一筆を入れることで価値を生むことができるかどうか。それにはテナントデモクラシーという考え方があります。賃貸居住者の民主主義を尊重するのが原則なのです。そこでは住民が意思決定するということになっており、日本の賃貸とは権利形態からして異なります。しかし事実上は日本でも同じで、居住している賃貸居住者が一世帯や二世帯しか残ってない住棟があっても、出て行くことに同意しないために残っている場合もありますね。ではヨーロッパの場合と日本の場合で何が違うのかというと、積極的に環境を良くしていこうってことを話し合う場があるかどうかです。住人のおぼろげなイメージやアイデアを形にしていくような。この20余年の間に、ヨーロッパでは新築の仕事が減り、改修などの仕事がどんどん増えています。いま必要な人材はコミュニケーション能力のある人材ということになるのでしょう。従来建築の専門家は一般の利用者とはコミュニケーションを取る必要がなかったわけです。でも今は一般の人に分かってもらい、会議や話し合いをリードするコミュニケーションスキルが必要となっているようですね。̶̶̶その会議のリーダーになっているのは建築家の方の場合が多いのでしょうか。松村 ええ。そういった職能を「ファシリテーター」と呼ぶなど、いろいろ呼び方はあるみたいですけども、やっぱり建築の設計ができる人っていうのは案も出せるわけですよね。一般の人は要望なら出せるけれども、みんなの言っていることを一つの案にまとめていくってことは設計をやってきた人じゃないとできない面がありますね。ひばりが丘団地再生ひばりが丘団地空撮写真:国土画像情報(カラー空中写真) 国土交通省写真:(株)ミヤガワ04Interview

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