DESIGNWORKS Vol.13
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Interview佐々木龍郎氏に聞く持続的社会に向けた建築の価値‐起点としての個と文化的耐久性今回は医療・福祉・住宅の空間を中心に掲載しています。東京本店の作品の中から、しせい大地の家、ルフォン御殿山、シティタワー品川を視察していただきました。佐々木先生は建築家、教育者、研究者として、また、横浜まちづくり倶楽部のような都市的な活動まで様々な顔をお持ちですが、作品の印象をお訊きする前に、先生の建築に対する様々な関わり方や現在の具体的な活動内容についてまず、お話を伺いたいと思います。個を起点とした空間の持続的な価値佐々木 すべての基本は建築です。20席のビストロのインテリアから1000床弱の総合病院の増改築までさまざまな規模・ビルディングタイプを手掛けています。そしてそこで得た知見を活かして歴史建造物の保存活用、道路拡幅に伴う街並形成、景観計画の策定、50年後の港湾地域の構想、アルミ構造住宅の普及、横浜の継続的なまちづくりへの取り組みなどさまざまなプロジェクトを通して、建築や都市の成り立ちというものに携わってきています。———住宅では、ルフォン御殿山とシティタワー品川という同エリアの2つの分譲住宅を見学頂いています。これらの作品についてどのような印象を持たれましたか。佐々木 分譲集合住宅というのは、販売時の瞬間的な価値を高めるために空間を商品化 するような側面があると思います。そのた めにそれぞれの敷地に対してプランニングとコンストラクションの技術が駆使されていく。———プラウド新浦安マリナテラスは低層分棟型の集合住宅で、品川のような都心の集合住宅と比べてかなり周辺の地域に違いがありますね。佐々木 浦安は住宅地の見本市のような地 域で、戸建住宅・集合住宅のありとあらゆるタイプが揃っています。ただ建蔽率や容積率がパッチワーク状に設定されているため全体的には散逸した印象にはなっている。その中でプラウド新浦安マリナテラスは容積率が100%という恵まれた条件を活かして5つの棟と緑地を市松模様に配置し、建物とオープンスペースとを等価に扱うことにより、それぞれの棟の独立性を高めたヴィラのような佇まいになっています。外壁面積が増えると工事費が高くなるといった事業上の話しもありますけれどもその外壁に対して一定規模のオープンスペースが隣接しているため室内への還元価値は大きいと考えた方が良いと思います。このような配置計画では、方位に固執していると難しいのですが、ルフォン御殿山のような階段室型アクセスにし、建物外周をすべて居室にすることによりオープンスペースの価値を更に活かせるようにも思います。———佐々木先生は、高齢者のための福祉施設もいくつか設計されていますが、しせい大地の家のような子供のための施設と比較してどのような印象をもたれましたか。佐々木 今まで慢性期系の病院や、介護老人保健施設などの高齢者が一定期間そこで過ごす施設をいくつか手掛けていたのですが、最近、 そして、その瞬間の価値の最大化が損なわれないようにしながら、その敷地で建築として何ができるのか、いかに持続可能な空間の質を具現化することができるのかが大切だと思います。その点で今回拝見したルフォン御殿山とシティタワー品川は住宅地のロケーションとしてまったく異なるコンテクストを持っている敷地に対してそれぞれ別な水準で的確に応えていると思います。特にルフォン御殿山は厳しい形態規制を逆手にとって、プライバシーの高い内階段室アクセスとし、床面積に比較して多くの外壁面積を持つスケルトンを実現しています。そしてその外壁についても周辺のコンテクストを読み込んだ上で建築として構成されています。———シティタワー品川はいわゆるタワーマンションですが、8角形の平面とすることでタワーが林立する中で眺望を確保することに成功しているといえます。佐々木 タワーマンションが人間の生活環境として適しているか否かは抜きにして、周辺環境に対して敏感に反応して建物ボリュームを決定することによりスケルトンとしての価値は上がっていると思います。建設の合理性を突き詰めた結果の純ラーメン構造という形式も、階高の低さは気になりますが将来さまざまな用途に転用可能です。そのような意味では、壁を構造に活用している集合住宅と比較してさまざまな状況に対応可能な機能的耐久性を持ったスケルトンとしての社会的価値は大きいと言えるのではないでしょうか。ルフォン御殿山シティタワー品川プラウド新浦安マリナテラス撮影:大野繁撮影:(株)ミヤガワ撮影:(株)ミヤガワInterview
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