DESIGNWORKS Vol.13
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誰のためにあるのかということをきちんと見極めないといけないと思います。個と集団の関係には若者や高齢者という区別はないということです。その意味でさまざまなビルディングタイプを横断しながら、建築の形式と利用者の在り様を再編集するタイミングに来ていると思います。———これからの医療福祉施設と住宅とを横断的に扱うときの主題として、何が重要になってくるのでしょうか。佐々木 大きく二つあると思います。一つは就寝空間です。住宅や医療福祉施設、ホテルなどにはいわゆるベッドルームがあり、実はそれが個人の生活の起点空間になっています。もちろんビルディングタイプにより空間の基準や価値観は違います。例えば、病院では病棟における病室の在り様ということになりますが、そこにはある一定の時間過ごす生活空間の質、家族やお見舞いの方と触れ合う交流空間としての質、そして治療のための空間の質と3つの質をクリアしていかなければなりません。特に多床室では一時期個室性が重要視されてきていましたが、これからは治療の内容と在日数などに対して3つの質をいかにバランスさせるかが肝要になると思います。そのため医療福祉施設では共用部の質よりも個の空間の質が大事になってくる。これは例えばしせい大地の家でも同じことだと思います。やはり子供が寝起きする空間が施設の軸になっていくということです。住宅でも就寝空間の質は大切だと思います。その点で現在の分譲集合住宅は未だ個室の質売時の瞬間価値が最優先される分譲集合住宅では物理的耐久性しか貨幣価値としては評価されません。建築の文化的耐久性———ヨーロッパでは、スペインのサン・ パウ病院※2のように、建築作品として評価され、 世界遺産として保存されるような動きも ありますね。佐々木 そうですね。病院建築も一般的には物理的耐久性と、将来の施設基準の変化や用途の変化に耐え得るような機能的耐久性が計画の主題になると思いますが、病院に限らず日本ではヨーロッパにあるような公共的な施設の文化的耐久性についてはほとんど議論されていないのが現状です。聖路加病院のように昔の建物を活かしているケースは希少です。日本では、住宅も病院も、徹底的に点数化、定量化が進んでしまった分野だと思うんです。医療も基本的には診療点数を軸にそれが制度や施設整備に反映されていくので、その徹底的な点数化みたいなものが押し進められていくと、点数にならないものが全部外れていく。住宅で言えばエコポイントがそれに近い話になると思います。装置にしろ、建築と一体になった工夫にしろその点数の多寡が建築の価値に直結してしまう可能性は少なくないと思います。ただ、一方でその文化的のものを点数に置き換えられないかという見方もあると思います。定性的に雰囲気がいいとか歴史があると言っても、この国では余り大切に扱われないので、設計者の側からきちっとした数値的な根拠とよりもリビングダイニングなどの質が瞬間価値になっていることが少なくない。具体的にはnLDKから(n-1)LDKまたは(n-2)LDKぐらい面積比部屋数を減らさないと快適な寝室はつくれないと思います。一方で今回拝見したシティタワー品川のゲストハウスは窓際に大きなベッドルームというホテルのようなつくりになっているのですが、そのような大きな寝室と必要最小限の住宅設備という構成も住戸として十分あり得ると思います。一方で共通して考えた方が良い点もありますね。例えばベッドと水廻りの位置・仕様の関係などはそうですね。この国で在宅介護を難しくしているのはマンパワーもさることながら、治療を行う施設の基準と住宅のスタンダードな空間の仕様との乖離にも要因があると思います。バスルーム一つとっても1方向からしか介助ができないユニットバスがほとんどを占めている状況です。トイレもさすがに玄関脇というのは減ってきましたけど寝室から距離があるものがまだまだ多い。そのように見ていくと、就寝空間はさまざまなビルディングタイプに横たわっているにも係わらず、その在り様とか質について包括的に議論がされているわけではないことに気付いて、現在、人間工学の専門の方などを交えて就寝空間を軸に建築の可能性を広げていくための研究会を立ち上げようとしているところです。もう一つの主題は建築の文化的耐久性です。先程から少し触れていますけど、耐久性には物理的耐久性、機能的耐久性、文化的耐久性と3つあります。機能的耐久性と文化的耐久性をまとめて社会的耐久性と言っても良いかもしれません。その視点で言えば、例えば販サン・パウ病院聖路加病院Interview

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