DESIGNWORKS Vol.13
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いうかたちでアピールしていくことも大切になってくると思います。そうでないとこの国で文化的耐久性をしみ込ませていくのは難しいと思います。———文化的耐久性について、今後建築の持続的な価値を考えていく上で、どういった点が重要になるとお考えですか。佐々木 ここ数年、リノベーションのプロジェクトや研究会にかかわっていて、最近、「価値のリハビリテーション(回復)」、ということを言っています。高度成長に合わせて一定の質を持った建築が一斉につくられて、それが集まり都市を形成してきていて、成長が止まった今でもルーティーンとして継続している。均質な価値で均質なものを作り上げてきて、作りきったところでどうしようとなったと きに、また均質的なもので代替しようとしていくのには無理があると思います。建築のリハビリテーションは3つのポイントがあって、治療の方法もさまざま、治療の期間もいろいろあって良い、そして一番大切なのが治療の目標到達地点がそれぞれ違っていてもいいという事です。要するに完全に治らなくてもよくて、その人の生活水準に合わせて治せればよいのですね。ここ数年、横浜で芸術不動産という事業を横浜市と共に取り組んでいます。築数十年でさらに使われなくなってほったらかされている建築などを再生してアーティストやクリエーターの創造活動拠点として貸していくというプロジェクトです。築50年、ほったらかされて20年の木造住宅を学生によって再生したり、築80年のビルの使っていない2フロアを入居者の手で再生しそのまま借りたり、幾つかの事例が積み上げられてきています。半完成品でも良いのですがある程度のところまでできていれば、あとは入居する方々が加工しながら使っていくことを想定しました。そのときの入居者に渡す直前の状態がリハビリテーション後の状態のイメージです。それ以上直す必要がなく、後は自然に治癒していくような状態です。建築も都市も、そのようにして少しずつ持続していくのが自然な状態ではないでしょうか。———最後に竹中工務店に期待することがあればお願いします。佐々木 私の父はその昔、吉田五十八のもとで働いていたのですが、吉田五十八は細くするのは技術で太くするのはデザイン、というようなことを話しをしていたようです。確かに彼の特に住宅作品を見ると繊細な意匠もありながら骨格自体は決して細くなく、それが空間全体の質を決めているのだと思います。そしてそのような考え方が文化的耐久性につながっていくような気がしています。竹中工務店は最新技術を体系化しながらも一方で伝統工法の継承もきちんとやっている。そのような企業自体の文化的耐久性を活かして、この国のかたちをつくっていっていただきたいと思います。———本日はどうもありがとうございました。(聞き手:酒向 昇・宮本 聡子・加 真一眞鍋 展仁・田村 望)佐々木 龍郎(ササキ タツロウ)/建築家1964年東京都生まれ1987年東京都立大学(現首都大学東京)工学部建築学科卒業1989年同大学院修士課程修了1992年同大学院博士課程満期退学1992年デザインスタジオ建築設計室1994年株式会社佐々木設計事務所(現在同代表取締役)現在神奈川大学・京都造形芸術大学・東海大学・東京電機大学・横浜商科大学非常勤講師、千代田区景観アドバイザー、横濱まちづくり倶楽部理事著書(共著)『コンバージョン、SOHOによる地域再生』(学芸出版社)『まちづくり101の提案カード』(光画コミュニケーションプロダクツ)設計作品NH-HOUSEスマート南青山山望苑マイウェイ四谷市川のインフィル※1 コレクティブハウジング:共同住宅において北欧で発祥した居住スタイルで、個々の住戸のプライバシーを確保しつつ、その延長上に共用スペースを設け、生活の一部を共有するような住まい方。※2 サン・パウ病院(Hospital de la San Pau):1901年から1930年に建設され、現在も病院として使用されている。ドミニク・イ・モンタネールとその息子により設計された、48のパビリオンからなるムデハル様式の複合建築。1997年世界遺産に指定。Interview

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