DESIGNWORKS Vol.14
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できる文化的景観が、人工物中にも存在してきているということなのかなと思います。陣内 それから足元の賑わいも重要ですよね。これまでの建物の多くは、足元の魅力に関しては上手くいかなかった。大規模化したときに、ショッピングモールのように自分の中だけに取り込んでしまったり、周りの場所をつまらなくさせてしまったり。何かもう少し街を活気づけるやり方が本当はあるはずなのにね。———建築は高密度化して孤立させちゃうと死んじゃうということですよね。そういう意味では、六本木ヒルズの足元空間の作られ方は成功している部分もあります。周辺地域と断絶しないように地権者1人1人を説得して作りあげた結果、麻布十番という周辺地域を活性化しているようにも思えます。陣内 六本木ヒルズのけやき並木は、バークレーのリチャード・ベンダー※7さんが設計を指導したらしいですけど、都市のコンテクストの中に結果的にうまく流れ込んでいるという感じはしますよね。あそこは、地形が変化に富んでいたり、区画割のイレギュラーさがあるので、回遊するときの意外性がありますよね。港区ってそういうところが多いでしょう。あれは港区のメリットだなと思うんですね。東京の山の手の良さを損なってはいないと思います。———それから外周部の顔をどうするかという問題もありますよね。ニューヨークでは、セントラルパークのような大きなパブリックゾーンに対して作る建物のファサードが、すごく重要なメッセージを持つことが意識されています。陣内 日本では超高層を建てて自分のほうから眺めることしか考慮されていませんからね。かつては、広がりのある空間軸として川や掘割は上手に使われていたんです。昭和初期の復興した東京の様子を写真帳などが捉えているけれど、川沿いに近代建築の集積した面白い街並みが出来ている。大阪もそうでしたね。でも、同じような街並みが街路沿いとか公園沿いに出来ているというのはなかなか無いですよね。頼りになる軸を増やして、敷地単位でアクションを起こすだけではなく、公共と民間の力でもっと面白くなるように演出できると思うんですけれどね。隅田川沿いひとつとっても、面白いアクションをしている建築は少なすぎますよね。それから、スカイツリーの影響で、江東区・墨田区の内陸部の河川が注目されています。震災や戦災の被害が大きかったところで、工場から用途転換してマンションに変わってきていますが、本当に水辺に建つ必然性の無いものばかりが建っていて、建築的に評価できるものはほとんど無いんです。水辺を魅力的にしていくためには、絶対建築の戦略的な力が必要なんです。例えば今回とりあげられている博多などは、古代・中世から大陸と繋がる港町でしたし、水際線の長い都市空間を誇っています。そこに魅力的な水辺空間を創り出す可能性は大きいはずですよね。———最後になりましたが、竹中工務店設計部に対して、何か一言頂ければと思います。隅田川の水辺陣内 海外の人を東京で案内したりすることが多いので、日本の現代建築は非常に注目されているのだけれども、段々東京というコンテクストから見ても面白いものが求められてきていると思います。作品的な面だけではなく、全体の狙いやプログラムの良さを紹介してもらいたいですね。説明の仕方は難しいかもしれないけど、東京で現代建築を設計している人たちの意識の深み、それに耐えられるものを設計して、若い人や学生にメッセージを発してもらいたいですね。大きい建築というのは、力のある組織でないと出来ませんし、だからこそ江戸から引き継がれた資産を活かしたプロジェクトというのが成り立つわけで、東京の魅力をアップしていくような建築を、海外に広げて欲しいですね。———本日はどうもありがとうございました。(聞き手:米正 太郎・岡田 朋子・齋藤 華織松浦 勇一・中楯 哲史・吉本 晃一朗)陣内 秀信(ジンナイ ヒデノブ)/建築史家1973年イタリア・ヴェネツィア建築大学ユネスコ・ローマセンター(〜76年)東京大学助手、法政大学非常勤講師、「東京のまち研究会」結成1981年東京大学大学院工学系研究科建築史専攻博士課程修了1982年法政大学工学部助教授1990年法政大学工学部教授2007年法政大学デザイン工学部(新設)建築学科教授著書「東京の空間人類学」「都市を読む・イタリア」「わたしの東京学」「水辺都市」「ヴェネツィア」「東京探検」「東京」「歩いてみつけたイタリア都市のバロック感覚」「イタリア都市と建築を読む」「シチリア」「迷宮都市ヴェネツィアを歩く」「イタリア小さなまちの底力」「地中海世界の都市と住居」「イタリア海洋都市の精神」「イタリアの街角から・スローシティを歩く」ほか共著・編著多数※5 川添登(カワゾエ ノボル):建築評論家。※6 中沢新一(ナカザワ シンイチ):思想家、宗教学者、人類学者。※7 リチャード・ベンダー:都市計画家、カリフォルニア大学バークレー校名誉教授。Interview

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