DESIGNWORKS Vol.15
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会室など共同で使われる施設が、新しいビジネスを生む触媒となるべく、計画されている。人々の出会いの機会を増やし、そこで生まれるコミュニケーションこそが、多種多様なビジネスの交流を刺激し、促進させるという主張であろう。この半屋外的空間は、テント屋根のウッドデッキを介して広い水辺につながり、知的作業に不可欠な自然との接点が演出されているというわけだ。水上集落のように水面を囲い込んだ、開放的な空間が魅力的だ。かつての木場の記憶を漂わせながら、多く の人を集めるスポットにもなるのではないか。「オフィスアーバニズム」は、4〜5階の中小ビルがびっしりと建てこんだ都市の一画全体を対象にして、活性化を図る「街区一体型改修」の提案だ。手がかりにするのは、ビルの間に残された隙間。個々のビルの対応では生かしきれない隙間だが、街区としてとらえれば、有機的につなぎ戦略的に拡大することができるという発想だ。窒息しそうなオフィス空間に文字どおり風穴を開け、息を吹き返させ、オフィスとしての価値をあげる。その仕組みとして、企業の枠を超えた空間の連結が考えられ、全体として効率の高い空間利用をめざす。フリーアドレス制度もそのひとつだが、それによって空間的な余裕が生み出される。さらに、連結の仕方によっては隙間を拡大することが可能で、その隙間を利用した構造的、環境工学的なメリットも射程に含まれる。「ニコイチ」も同様なアイデアだ。ふたつのビルの間の隙間を積極的に拡大・活用し、ボイドスペースをつくって光や風を取り入れ、環境的なポテンシャルを上げるとともに、制震ダンバーを組み込んで耐震性の向上を図る。ふたつのビルのコアを共有させ、床面積を有効に使ってレンタブル比を高めるという現実的な目論見もある。全体の7割を住宅にコンバージョンすることにより、都心に住む人口を増やす意図もある。街中に人が住むようになれば、確かに街はにぎわいを取り戻すことになるし、オフィスと住宅との組み合わせは電力負荷平準化にも貢献することも期待される。「エコファーム住宅」は、自然環境に恵まれた立地を考慮して、住宅へのコンバージョンを 図る提案。カーテンウォールは建物の外装システムとして定着したが、その中にははめ殺しの単層ガラスを多用したオフィスも多い。その結果生じた大きな空調負荷を設備が支えるという図式をどのように変えるか、これも時代の要請する課題だ。同じビルを対象にしていくつかの改修案が提案されていたのは偶然ではないだろう。建物の全周にはバルコニーがめぐらされ、外側には緑のスクリーン、内側には 木製・可動の高断熱建具と通風用建具が設置され、彫りの深いファサードになった。全住戸は南向きだが、方位によって表情が異なる ファサードの提案もあったのではないだろうか。「GREEN BELT」は、らせん状に連続するテラスをオフィスビルの外周に増設し、多機能な新しいファサードを提案。外周からのアクセスを可能にするだけでなく、同居するグループ企業間のコミュニケーションスペースとして、自然の風を感じるリフレッシュのためのスペースとして、そして緑に包まれた建物の「呼「オフィスアーバニズム」「TIMES OFFICE」吸装置」として機能することが意図されている。グリーンベルトという名称には、緑にあふれ、都市のビオトープとなる回廊という意味の ほかに、建物全体の新しい耐震補強法による安全強化の意味も込められている。耐震補強はほかにも多くのユニークな提案があり、構造分野の技術陣の意気込みを感じさせられた。地域材の活用が木材振興の目玉とされる北海道。「木のオフィスのある都市公園」は、大量のカラマツを都市再生に活用できれば、一石で何鳥も落とせるという提案だ。老朽化したRC造のスケルトンだけを残し、床をはじめとして木造化すれば、建物重量は大幅に減少し、耐震性を高めることができる。それに加えて高断熱の木造外装システム、木材固有の室内気候調節機能やテクスチャーを生かした内装システム、木質ペレットによる熱源システムなど、木のメリットが満載された改修の提案だ。真骨頂は、そのネーミングにある。札幌大通公園に面するすべてのビルをこの方式で改修する壮大な構想なのだ。優秀賞にはならなかったが、「TIMES OFFICE」も、大いに注目したい提案だ。多くの企業がまったく新しいシステムで使用するレンタルシステム・制度の提案である。それを前提にすれば、まったく新しいオフィス建築が可能になり、環境制御のあたらしい空間システムを導くのではないかという可能性を感じさせられた。小玉 祐一郎(コダマ ユウイチロウ)/建築家・工学博士1946年秋田県出身1969年東京工業大学建築学科卒業1976年東京工業大学大学院博士課程修了、同大学助手1978年建設省建築研究所主任研究員・室長・部長1998年神戸芸術工科大学 環境・建築デザイン学科教授(株)エステック計画研究所主宰2000年環境・エネルギー住宅賞(IBEC)2003年JIA環境建築賞2005年日本建築学会選奨・グッドデザイン賞Special Issue
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