DESIGNWORKS Vol.16
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試験体カウンターウェイト支点打ち勝っていけるのか」と不安を感じる人が多いと思います。大きな災害がなく平穏な時代が何年も続くと、またこの紙に書かれた人間の世界を守ってさえいれば自分の仕事が終わったつもりになってきますよね。自然っていうのはすごいパワーがあるから人間の作った世界よりはほんとはやっぱり大きくて、色々抜けている部分をクールにアタックしてきます。それで人間の方としては「そうか、やっぱりちょっと楽観的すぎたかなぁ」って、「自然って言うのは僕たちが考えているよりでかいなぁ」って考えます。これで何年か何十年かして、また別の弱点を自然はアタックしてくる。残念ながら、こうして我々の技術をキャリブレーションしていくことの繰り返しです。地震の度に、「何々震災から学ぶ教訓」という本が必ずでます。こうして足りない所を補っていくことになりますが、それだけでは寂しいですね。先ほど1981年に地震の5倍の力を考えるってことになったというお話、戦前はK≥0.2がK≥0.1だった訳ですよね。その頃に構造設計をした経験があり、戦後にルールが変ったことも全部御存知の80歳過ぎの著名な構造設計者がおられます。鉛直荷重時の曲げモーメント図を描きますと、6m〜7mという当時のロングスパンのRC梁ですと、端部には上端筋、中央は下端筋が必要です。これにK=0.1相当の地震力をかけても、この水平力による材端モーメントは小さいから、材端は上端テンションのままになってしまう。要するに下端には引っ張りが出ない。端部には下端筋が要らない梁が出来てしまう。耐震設計の教科書の歴史の部分には「0.1が0.2に増えたが、許容応力度も2倍にしたから、戦前の建物が危ない訳じゃない」と書かれていますが、ほんとは違っていて、地震の力を小さくすると色々な所におかしなところが幅50cmぐらいの木の板で作ったシーソーで出来ています。シーソーの支点は中央より右の方に偏っていて、その右端には鉄の錘を置き、何もしないとちょうどシーソーの中立が保たれるようになっています。支点より左50cmくらいの位置に、バルサや針金を材料にして学生が作った橋のような構造物模型を、シーソーを跨ぐように置き、模型のスパン中央とシーソーの板を鉛直方向に細い鋼棒で繋ぎます。シーソーの試験体のそばに学生が乗ります。80kgの学生が乗ると試験体に80kgの荷重がかかり、50cm左に歩くと、試験体には160kgの力がかかります。テコの原理で、離れていくと最大5倍ぐらいの力がかかります。それでも壊れないと友達が試験体のそばに乗ってまた左に向かって歩く。そうすると試験体がさらにたわみます。ミシミシっと自分の立つシーソーが下がる訳です。最後、壊れるときはガシャーンってなるのです。自分で作った試験体を自分の体重で壊して、なおかつ壊れてゆく感覚を実際に体で感じる、すごく大切だなぁって思ったのです。同じようなことはアメリカでは他の大学でもやっています。例えば、試験体にぶら下げた籠に鉄の錘を入れていき、もう一つもう一つと、これも大丈夫かなって、錘を入れて最後は壊れましたとなる。皆で見ていて拍手するのです。どこの大学でも、使った材料の種類と量によって計算した数値を分母に、構造物の抵抗力を分子にして点数を付け、一等賞を選びます。自由の国ですから、この式は大学によってそれぞれ異なります。———「少なくとも模型で持てば、実現の可能性がある」「模型で壊れそうなのは始めから駄目だ」と。力学的に成立するのかを読み解くバランス感覚、模型を作るとはそういうことなのですね。現れてしまいます。大学にしても工業高校でも、教科書に書いてあるのは平面骨組みの絵ばっかりですね。普通の設計をやっている人は、東西方向がAフレーム、Bフレーム、Cフレームで、南北方向が1通り、2通り、3通りという。そして、考えをいつも平面骨組みの曲げモーメント図やせん断力やヒンジがどうも出来るってね。でも実際の人が使うのは、空間だから、絶対三次元なのですよね。ときには、壁の面外方向をどれだけ期待するかなど、やはり全体として考えてできる答えが大切だと思うのです。竹中工務店みたいな会社に入った人たちだけが、構造物を立体として、全体として考えるっていうのはもったいないと感じています。もっと学生時代から、建物を三次元で考える訓練が必要であると思います。ところで、竹中では構造模型は作りますか。———設計に3次元CADを駆使したプロジェクトでも、構造検討用の模型を製作し、設計に役立てています。和田 アーキテクト側がつくる模型だけでなく、構造設計者が自分達で作製し検証することは非常に大切なことですね。模型を作ると、考えることは絶対三次元になります。20年ぐらい前に マサチューセッツ工科大学(MIT)で研究する機会がありました。MITは当時から日本の大学にあるような大きな試験機とかほとんどないのですね。解析や理論を専門とする先生が多いです。そこで学生が必ず一回受ける講義で、構造模型を自分たちで作って、それを壊すという面白い授業がありました。天井が少し高い講義室にある荷重装置は、何十年も前の古びた単純な木製の機械なのですが、素晴らしいです。この機械は長さ3.5m台湾客家文化中心 鳥瞰MIT構造模型実験器具イメージ台湾客家文化中心 構造軸組模型Interview
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