DESIGNWORKS Vol.16
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和田 バランス感覚が必要なのです。別な問題として最悪なことですが、「設計にはフローチャートがある」と考えている人がいることです。教科書やガイドブックに構造設計のフローチャートが載っていますが、構造設計者だけがコンピュータの前でフローチャート通りに進めて、はい出来ました、なんてやって設計が出来るわけがありません。意匠設計も環境・設備設計とも互いに独立ではありません。だからみんなで議論をしていて、難問が沢山あり混沌とした状況から、瞬間的にこれらが解けて設計の答えが出るものです。フローチャートに従って答えが出るなんて有り得ない。ただ今の若い人が有利なのは、この解析の道具が役立ったりすることもあるのでしょうが。デザインアンドビルドの可能性———本号では構造に特徴のある作品を特集しました。視察いただいた長楽寺禅堂、そしてコンピュータ解析を駆使して設計を展開している高雄客船ターミナル国際コンペ入選案について、感想をお聞かせください。和田 長楽寺禅堂はすごく洗練されたきれいな建物だなと思いました。新しい技術を採用しつつ日本的な建物をつくってほしいという住職の要望を実現しています。日本古来のお寺とモダンな現代建築との組み合わせが非常に上手くいっている。無垢鉄骨丸柱の採用など説明を聞いて構造的にも理にかなっている建築と納得しました。デザインアンドビルドにおける、コラボレーションの成果と感じました。客船ターミナルコンペ案は、三次元CADによる気流解析や構造計算を実施しながら自然の卓越風を活かした形を活かす形を導いているというのが楽しいですね。新しい構造計画ありかた、可能性を感じます。———最近の傾向のひとつなのですが、コンピュータと構造設計というのが非常に成熟してきたと同時にデリケートな関係にあります。かつて構造設計の先輩達は、コンピュータじゃなくてカンピュータって言いました。確かにある直感で出て来たディメンションの問題というのがあって、コンピュータに頼ってくると、建築の空間ディメンションを人間が決めるという行為が鈍くなってくる。だから、実はコンピュータが決めたからここにブレースがいっぱい入ってくるとか、どうしても壁厚が必要になってくるなど、簡単に言うと我々デザイナーが鵜呑みにし始めるというところがあるのですね。本来、空間だとかディメンションをコントロールするのがデザイナーであり構造設計者とのコラボレーションであると思います。和田 そうですね。チームでもいいし一人でもいいけれど、意図というか、こうしたいという心がありますよね。コンピュータには意図がないから、もつとかもたないとか、応力が出てきてそれを満たすように、鉄筋の本数を計算したり、形鋼のリストから鉄骨を選んできたりする。コンピュータがこうしろと言うから、またそうする。またコンピュータがこうしろと言うからって、悲しいですね。こんなことを続けていると、ほんとに大事な部分がどんどん細くなって、いらないところばかりがゴツくなったり。もし設計する人が、この水平力は壁に持たせて、この柱には鉛直荷重だけというような、こうしたいんだという意思と持って進めないと、ディメンションを決めるあたりで、コンピュータにめちゃくちゃにされちゃうことが台湾高雄港クルーズターミナル国際コンペ 3位入賞案あります。竹中工務店の皆さんは、問題意識をもってコンピュータを使っているから心配はしませんけれど、コンピュータが「うん」と言ってくれることが自分の目的みたいになっちゃってね。もともと、構造物の設計ということ自身がアクティブな行為ですよね。人間がこうしたいというもの。柱にしても筋違にしてもダンパーにしても。出来上がったものは確かにじっとしていて受け身、パッシブなんだけれど、設計という行為そのものはアクティブなのだと思います。設計したものがちゃんと思い通りにいけばそれでいいと思います。我々構造設計者は世界を住むのにより良いところにするためにいる。(“We, structural engineers, exist to make the world a better place to live.”)地震や風にちゃんと耐えられ、暑い寒いもコストの問題も、住んでいてみんなが元気に生活し活躍している。これらを全部含めて、世界をみんなにとって良いところにするってことなのです。エンジニアも研究者も、目的はこの一言に尽きると思います。人の決めたルールに乗ってそれ以外のことを考えずに仕事をするのは一番楽なんですね。「言われる以上に良いことをやろう」とみんなが思うかどうかが大切です。———最後に竹中工務店に期待することがありましたらお願いします。和田 それはやはり、デザインアンドビルドは勝ちだという作品をぜひ見せて欲しいですね。———本日はありがとうございました。(聞き手:田村 彰男・森田 昌宏・関谷 和則米正 太郎)和田 章(ワダ アキラ)/建築構造の研究教育1970年東京工業大学大学院理工学研究科建築学専攻修士課程修了1970年株式会社日建設計入社1981年株式会社日建設計退職1982年東京工業大学助教授(工学部建築学科)1984年米国シアトルワシントン大学外国人講師(建築学科)1989年東京工業大学教授(工業材料研究所)1991年米国ケンブリッジマサチューセッツ工科大学客員教授(土木工学科)1996年東京工業大学教授(建築物理研究センター)2011年東京工業大学名誉教授、日本建築学会会長現在に至るInterview

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