DESIGNWORKS Vol.17
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行方不明となったために、とりわけ漁業が受けたダメージと併せて、残念ながら人口の減少が加速することになるでしょう。今回被災した地域というのは、元々少子高齢化が厳しい過疎地域だったわけで、今後30年かけてじっくり取り組むべき課題が、待ったなしで解決を迫られている状況にあります。それは、東北地方だけでなく、日本社会全体が考えなければならない問題が先行して顕在化しているわけです。明治から昭和にかけて、日本経済はずっと上昇トレンドにあったので、大地震や大津波で被災しても、人口が元通りになる復元力が内在していたと思います。けれども今回の震災のタイミングにおいては、そのような復元力を期待することはもうで きません。そのような現実を前にして、建築にできることは何でしょうか。高度情報化社会の今日において、地震や津波の記憶は、災害の画像や動画という形式で半永久的に保存されると言われていますが、私はそこに疑問を感じています。やはり、具体的なモノとしてそこにあることしか、記憶を継承する手段はないのではないでしょうか。その役割を建築に果たしてほしいし、とりわけ、大規模で複雑な社内的要素を取りまとめることができる建設会社に、果敢に社会的な問題にとりくむプロジェクトを期待したいと思います。———私たちも、「東日本大震災を受けて、今、私たちが提案・提言できること」と題して設計部を含む幅広い職能の社員から166件の提案を集め、先日、社外の有識者を交えてシンポジウムを開催しました。今号の巻末にもその一部を紹介いたします。本日は、ありがとうございました。(聞き手:大平 滋彦・米正 太郎・横堀 伸・齋藤 華織)「東日本大震災を受けて、今、私たちが提案・提言できること」コンペ優秀作品展示状況(財)東京都建築士事務所協会主催「建築ふれあいフェア2011」五十嵐 太郎(イガラシ タロウ)/建築史家・建築批評1965年パリ生まれ1990年東京大学工学部建築学科博士課程修了2002年中部大学講師2004年同助教授2005年東北大学工学部准教授2009年同教授著書「新宗教と巨大建築」(講談社)「終わりの建築/始まりの建築」(INAX出版)「近代の神々と建築」(広済堂出版)「戦争と建築」(晶文社)「過防備都市」(中央公論新社)「美しい都市・醜い都市」(中央公論新社)「映画的建築/建築的映画」(春秋社)「建築はいかに社会と回路をつなぐのか」(彩流社)他多数※1 冗長性(redundancy):非常時に部分的な障害が発生した場合もシステム全体が機能するよう、平常時から機能拡張しておくことで得られる余剰性のこと。同一機能を複数化する縮退冗長、同一機能をバックアップする待機冗長などがある。※2 千里ニュータウン:大阪府豊中市と吹田市にまたがる千里丘陵に造成された住宅地。開発面積は約1,160ヘクタール、計画人口は150,000人。日本最初の大規模ニュータウンとして、その後の全国の住宅地開発に大きな影響を与えた。昭和37年(1962年)の街開きから半世紀を迎え、住民の高齢化や商業施設の衰退、交通網の再整備などの課題が浮上している。Interview
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