DESIGNWORKS Vol.18
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ときに、山奥から分祀して持ってきた胡神社のお祭りなどが、近代都市の中で結構にぎわう形で残っている。まったく更地にして、道路も全部変えていたら随分変わったのでしょうけれども、各時代のお寺などを核にして、みんなが結束して町が平和で安定だったことを、どこか自然に再生している。そのように自然に残っているものと、新しく付け替えなくてはならないものを、上手に整理して、運営していく必要があるんだろうなと思います。それから、広島で言うと並木通りというお洒落な通りがあるのですけれども、本来そこは海から繋がっていた堀だったんです。堀があるところは、都市の中では裏町側なんですよね。ある時に埋め立てて整備したら、表通りになって、歩行者にとってのいい町並みができちゃった。それは裏返しすることで、歴史が生きているということになるんですね。少し堀についての歴史を話すと、初めに豊臣秀吉が大阪で海抜0m地帯に堀を巡らせながら、海辺のデルタに巨大計画都市を作る。次に広島を毛利輝元が、江戸を徳川家康がと続いて、1600年頃に堀を使った都市計画というものが日本で初めて適用され各地で作られています。今、津波の問題が出てきていますが、ある「都市についての考え方」がその時期に登場したということなんです。それがどのような意図でやられたのかを研究し確認することで、日本人はその時期に新しい都市の遺伝子をつくったということを再認識しなくちゃいけない。そこのところを、いまひとつ忘れてしまっている。都市というのはかつてはデザインされたものだった。ひとつの土地を秩序をもって形成し、大きな価値を生んでいたのだということがもっと認識されれば、随分、日本の都市のイメージも変わっていくんじゃないかと思うのですけどね。今回見せてもらった広島の駅前の再開発も、城下町からの借景になっていた小山の手前の、都市以前の集落の跡だったエリアにあります。ひとつの作者や組織がひとつの街区をまとめるのは良いことだし、さらに上手にやれば、古い都市と現代の都市の調整が取れるような空間が作れるんだろうな、と感じました。様式のサイクル———クロス銀座と城南ビルについて、現代建築の歴史位置という視点の中で、どのように見ることができるのでしょうか。杉本 都市にはこれまで話したようなある着実な歴史がありますが、建築というのは長い歴史の中でとなると、「様式の変遷」になるのですね。中世では、宗教が背景にありますが、近代になると、理性や合理性が一番という時代となって、宗教が背景ではなくなります。それ以降、様式の変遷の中に、見えない生理現象みたいなものが起こっている。一元論が二元論、多元論になり、更にカオス的に複雑になっていくプロセスがあって、突然、非常に明快な一元論に戻るというサイクルになっているのですね。20世紀の初めにモダニズムの革命があって、明快な幾何学が出てきて、約100年を経て今は非常に複雑な多元論の時代、複雑さを生理的に好む時代になってきている。最も多元的なものとは、有機的なもの、生物的、植物的なものです。現在の形態のデザインは、そういう段階にあります。初期ルネサンスから盛期ルネサンスにかけて一元論が出て来て、マニエリスムの二元論になり、バロック時代の多元論になる。その後ロココに至るというプロセスと、現代はクロス銀座カリブ海の小屋 G.ゼンパー著『様式論』所収城南ビル非常に似た現象だという風に見ています。例えると、フランク・ゲーリーが典型的なバロックで、複雑さを徹底してやっている。それ以後、生理的に飽きたということなのか、建築の形はシンプルになりつつあり、一方、表面に見えるものは装飾的なものに変わっていって、建築の形と表層の装飾に二分されつつある。かつて手仕事でスタッコをこねて植物装飾を作っていたのが、今はデリケートな光や繊細な金属類などのテクノロジー的なものになっていると思うのですが、表層的で細かい感覚的なものを表現するのはロココ的な感性です。また、クロス銀座と城南ビルについては皮膜論という視点からも読み解けると思います。19世紀中頃の二元論から多元論に移る時代に、ゼンパー※2が新たな建築理論を独自に作ろうとするんですが、カリブ海の原始的な小屋をモデルにして建築理論を立てるんですよね。軸組型の建築で、葉っぱを織った物をぶら下げるのが壁だという理論で、実はそれは、20世紀のインターナショナルスタイルが生まれるベースになる。ヨーロッパの伝統にはない、「大きな開口部」が出てきたのです。コルビュジエが、近代建築五原則で理論化するのですけど、今回この建物たちを見ると、このゼンパーとよく似た発想を持っている。近代的な表層論や皮膜論を反映した建物という意味で、説明が出来るものだと思います。しかし、周期的な変化という理論からいうと、現在は感性の時代ですが、これからは理論的な発想が明快に示された建築とい うものが問われることになると予想しております。そういう意味では、クロス銀座の作品はフレームとスキンの関係の理論づけをもう少し深めても、良かったのではないかと思っています。写真:勝田尚哉写真:小川泰祐Interview

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