DESIGNWORKS Vol.18
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デザインにおける「揺らぎ」———アメリカンクラブについてはいかがでしょうか。杉本 多様性を追いかけるときのひとつの方法として、現代の折衷主義が用いられていると感じました。19世紀後半の、ヨーロッパでのネオ・バロックは、実は色んな国の色んな様式を取り混ぜていて、ある裁判所の建物では、部屋ごとにゴシック、ロマネスク等と様式を分けて作っていた。ネオ・バロックとは、多様性を前提にして、それをいかにドラマチックに表現するかということでした。そういう意味では、さきほど申し上げた現代建築のロココ化というのは、「大きく分かりやすいひとつの波」でしかないわけです。生理現象というのはある種の揺らぎを持っていて、生物は心臓の鼓動も、機械と同じような完璧な鼓動でなくて、微妙な揺らぎを伴いながら安定しています。我々の建築デザインにおける生理現象も、ある種の揺らぎを持って、常に変化していないと生きていけない。しかしその一方で、ベースになるものがあって、ヨーロッパで言うとそれは古典主義です。古代ローマ時代から2000年続く秩序あるものを持っていないと、どこに行くか分からない。揺らぐものと動かないものの合成でいろいろなことが起き、どれが古典主義で、どれが揺らぎの感性に合致するのか、幅を持って建築をデザインすることが必要だと思っています。アメリカンクラブではシーザー・ペリという外国人が、日本の古典主義として、軸組み構造を分析したのだということが見て取れました。「幅を持つ」ということの分かりやすい例で言うと、フランク・ゲーリーがベルリンのパリ広場に作った銀行建築に、外観は完璧なミニマリズム、中に入ったら魚の腹みたいな 「尾﨑呉服店」といった、都市部と対照的な、鳥取や福井といった地方都市に、モダニズムのヴォキャブラリーを持つ建築を作ったものがあります。杉本 モダニズムという言葉自体は、長い歴史を考えると余り普遍的な意味のある言葉じゃないんですよ。きちっとした四角い形を作るというスタイルは、古典主義であって、今それをモダニズム建築と言っていますが、そのヴォキャブラリーは基本的に近代の古典主義なんです。そのように見れば、「理性」と「風景、自然」のコントラスト関係をどのように作るのかという、永遠のテーマになる。モダニズムか、そうでないかという言葉に拘らなくて良いし、モダニズムという言葉自体は、一種の時間概念なんですよね。もっと先へ行きたいというモチベーションを言っているだけなんです。地方都市ということに注目すると、シンケル※3の先生に、ダーフィット・ジリーという建築家がいて、18世紀後期のプロイセンの田舎の方で独特の新古典主義を開拓して、倹約し装飾を省いた見事な幾何学のデザインを作り出しているのです。ちょうどこの2件の郊外作品のようなシンプルな感じを連想させます。いわば地方の論理と言えます。———理性の建築は、やっぱり地方都市から出てくるのでしょうか。杉本 パリで豪華なロココが出てくる一方で、地方の非常に知的な人がプロイセンの宮廷の御料農場を作っていて、王様の別荘なんですけれども、ルドゥー※4のような見事な幾何学デザインがされている。都市と地方との関係はある種、裏返しだという解釈もありますね。実はドイツの学者さんたちはダーフィット・ジリーを大建築家だと評価 インテリアが出てくるものがあります。彼はベースと揺らぎについてよく分かっているんです。今はバロックでやるのが良いなというときは、それを見せているだけで、別の素養もきちんとある。このところが振幅なんです。大半の人は、カオス的なのがゲーリーだと思っているのですが、一方だけを見ると、大変な誤解をする可能性があります。———本日、冒頭では景観のコントロールのお話があり、次には建築の様式のサイクルやデザイナーの感性のお話がありました。この二つはどのよ うに関連しているのでしょうか。コントロールとは「揺らぎ」を止めることのようにも思えるのですが。杉本 コントロールと言っても、余りガチガチの規制ではなくて、ここまでは共同させよう、というルールなんです。実際、今のパリ広場ではスカイラインを復元しようとしてコントロールをかけてやってますけれども、さっき例に挙げたゲーリーのように、現代建築を作るときの感性を表現することは可能なんです。規制のない場所では、好きに曲面を使うことだとか、社会のルールと個人の表現力を上手にバランスさせることが出来るということなんでね。コールハースが、ニューヨークは基本的にグリッドプランで、ある意味社会主義だが、上層部については自由だと言っていて、そのルールを描いた面白い絵があったでしょう。ルールと言うと、規制だとすぐに反発をしてしまうのは賢くない。表現の文法さえ知れば良いはずなんですけれどね。地方から生まれる建築———今回の作品には、「テクニカフクイ」や アメリカンクラブフランク・ゲーリーのベルリンの銀行 外観・インテリアテクニカフクイ写真:新写真工房 堀内広治写真:吉村行雄Interview

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