DESIGNWORKS Vol.18
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しているのです。フリードリッヒ大王記念碑という見事な絵を描いた、息子のフリードリッヒ・ジリーのほうが日本では有名ですが。現代では、ズントーやヘルツォーク&ド・ムーロンなどのミニマリズムがスイスから出てきました。彼らにも、基本的にはアルプスの自然環境を背景にした、非常に倹約型の厳しい理論やライフスタイルがあるんですよね。今、エコロジーと言っていますけれど、ローコスト、要するに倹約をして何をしっかりしなくてはいけないかということを考える時代なんですよね。これからの技術と建築———エコロジー、ローコストといったキーワード以外に、21世紀の都市はどうあるべきか、また、それを建築がどのように作っていくことができるか、という部分をお伺いしたいと思います。杉本 都市というものの歴史を見ていくと、近代、産業革命で巨大都市というものが登場したときに、例えば近世の城塞、城壁を自ら壊して、都市が拡大していき、どこまでが都市か段々分からなくなってきた。基本的に都市とは市場から、ある種の物々交換から始まるのですが、現代はその交換が行われているのがネットなんですよね。よく都市はインビジブルだと言われますけれども、飛び交っている電波か光波が都市現象なんだという話になってきて、実在の都市はドバイのような単なる欲望のかたちに過ぎなくなっている。また、IT技術というバーチャル、デジタルな技術がこれから活かされていくと思います。現代のロココは別な言い方をすると、現代のアール・ヌーボーでもあると思うのです。かつてのアール・ヌーボーを支えたのは産業革命の後に出てきた当時の鋳鉄技術ですよね。新技術をこうやって使えるとやって見せた。今の時代は、IT技術なんですよ。非常に端的に言うと、CGもある意味では建築学なんです。仮想とはいえ建築や空間が出来上がる訳だから。例えば、グレッグ・リン※5というアメリカの学者的建築家がやっているブロビテクチャー(泡状建築)、あれはまさにコンピュータ技術が生み出した新しいアール・ヌーボーだなという風に見ています。色んなデジタル技術が何を生み出すのか。具体的に目に見えないものもあるし、目に見えるものもあるし、色々あると思うのですけれども。———理性や感性は、最終的には個人に帰属するものだと思いますが、日本の多くの建築は組織に属するデザイナーによって作られています。純粋な個人とは少し違うスタンスで、建築を社会的なものにしている。理性や感性が指し示すものと、組織というのはどういう風に上手く連動できるとお考えですか。竹中工務店にひとこと、という形でお聞かせ頂ければと思います。杉本 極端ですが、ヒトラーは建築家になりたくて、政治権力を持つと自分のイメージを強制し、社会の側では、人々は彼を支持したんですよね。そのことを人々は、戦後ずっと反省している。組織論として考えると、お互いの批判を受け入れられる組織になっていないといけない。それから、次の世代を育てている事務所と、そうでない所があると思います。内部での良い運営が出来ている所では次の世代、弟子が育っていく。例えば伊東豊雄さんは上手いんだろうな。丹下さんもある時期になかなか良い人を輩出しています。理性と感性という意味では、竹中工務店の皆さん方は、 どちらかと言うと、日本的な古典主義によって、尾﨑呉服店ダーフィット・ジリー設計 パレッツ御料農場の一施設※1 CIAM(Congrès International d'Architecture Moderne、シアム、近代建築国際会議):モダニズムの建築家たちが集まり都市・建築の将来について討論を重ねた国際会議。※2 ゴットフリート・ゼンパー:19世紀ドイツの建築家。代表作は、ドレスデンの歌劇場。※3 カール・フリードリッヒ・シンケル:18世紀ドイツの新古典主義建築を代表する建築家。代表作はアルテス・ムゼウム。※4 クロード・ニコラ・ルドゥー:18世紀フランス革命期の建築家。代表作はアルケ・スナンの王立製塩所。※5 グレッグ・リン:建築やデザインの手法にいち早くコンピューターを取り入れたパイオニアである建築家余り揺らがないところを基本にされていると思います。作品に大きな揺れは見えないですよね。前衛ではなくて少し後衛で、次の時代まで続くものを作っていこうと言う姿勢がありますよね。技術的なバックボーンが現れたら一気に行きましょうと。まあ、良い意味での保守性でしょうね。文化を維持していこうとするベースには、やっぱり古典主義というものがあって、それを非常に良くこれまでやってこられているのが、竹中工務店の設計部のやり方、建築の姿であると思います。古典主義の価値を再確認して頂いて、21世紀にとって何が大事なのかということを考えて、持続させていってほしいですね。———本日はどうもありがとうございました。(聞き手:関谷 和則・岡田 朋子)杉本 俊多(スギモト トシマサ)/工学博士1950年兵庫県生まれ1979年東京大学大学院工学系研究科建築学専門課程博士課程修了1979年広島大学工学部第四類(建設系)助手1979年広島大学工学部助教授1997年広島大学工学部教授1999年度日本建築学会賞(論文)改組により2010年〜国立大学法人広島大学大学院工学研究院 教授・副研究院長広島大学評議員著書『バウハウス―その建築造形理念』(鹿島出版会、1979)『建築の現代思想』(鹿島出版会、1986)『建築夢の系譜』(鹿島出版会、1991)『ベルリン、都市は進化する』(講談社、1993)『ドイツ新古典主義建築』(中央公論美術出版、1996)『二〇世紀の建築思想』(鹿島出版会、1998)写真:古川泰造Interview

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