DESIGNWORKS Vol.19
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なったら大体組織は駄目になっちゃうんですよね。チャレンジ精神を持ちながら経済、技術、デザインの全体のバランスというものを大きな目で考えられるかというあたりが、今までのところ、誤らないで捉えているなという風には見られます。全体をちゃんと引き締める手綱と、優秀な人材をどこまで伸ばせるかというバランスが、いろんな形でできていると思います。「創造」という伝統———竹中工務店というと、伝統的なものを保持しながら作品づくりをしていると一般 には思われがちです。けれども、例えば設計部ができた初期の頃の、藤井厚二が部長をやっていた頃の作品などは、非常に斬新です。あるいは竹中藤右衛門が日本初のRCやSRCの建物を建てたり、会社を法人組織にして「工務店」という言葉そのものを創造するなど、建設業界を牽引する役割を果たしてきた感じがします。馬場 確かにそうですね。いわゆる伝統というよりも、「チャレンジして新しいものを作っていくという伝統」があると思います。前と同じようなものではなく、かと言って常に変わっていればいいかというと、そうでもない。アトリエ建築家の場合は、海外からの影響を実現することで、精神面が保たれているけども、それには必ずお手本があるわけです。これは日本の宿命かもし れないけれど、明治以降は、「あるお手本をものにする」のが一つの方法だったのです。 一方で、竹中工務店の場合の新しいチャレンジというのは、そういう最新の意匠を追うのではなくて、自分達の築いてきた技術と担当者の新しい感覚が、基礎になっている。それは大変稀少であって、なかなかそういうかたちは出ない。日本の建築の作り方には、「西まわりの建築」と「東まわりの建築」があります。「西まわりの建築」とはいわゆるヨーロッパからの建築で、日本人建築家が初めて真似をしたのは、ちょうど新古典主義建築の時代でしたが、その後真似をする対象がル・コルビュジエやバウハウスに変わっていくわけです。「東まわりの建築」というのは、アメリカの合理主義建築のことです。日本の場合は、アトリエ設計事務所が「西まわりの建築」を、組織設計事務所が「東まわりの建築」を規範としてきました。実は竹中工務店の建築作品は、特にどっちにも当てはまらない。ル・コルビュジェやミースやSOM※3の影響は大きいけれども、竹中工務店の場合、例えば御堂ビルなどがそうですが、決してお手本があって作るのではなく、自らの技術を裏付けながら新しい何かがで きると考えて作っていた。挑戦しても失敗 しない技術を以てチャレンジする、という 高度なバランス感覚は、これまでもずっとあ ったと思います。その連続だったのではないでしょうか。———当社の創業は1610年で、300年ぐらいのあいだずっと、社寺仏閣を造っていました。その技術や知識の延長線上にそのバランス感覚はあるのかなと思ったりするのですが、いかがですか。東京タワー組み立て中の南極基地※1 村松貞次郎(ムラマツ テイジロウ):日本の建築史家、1924~1997、東京大学生産技術研究所教授※2 浜口隆一(ハマグチ リュウイチ):日本の建築評論家、1916~1995、日本大学客員教授※3 SOM:Skidmore,Owings & Merrillの略称、1936年にシカゴで結成された、アメリカ合衆国最大級の建築設計事務所馬場 ゼロではないと思いますけれども、やっぱりそれとは別です。確かに当時の大工の棟梁というのは、ものすごい権威をもっていたし、それだけの技術、デザイン力をもっていたわけです。ただそれが明治以降の建築でそのまま生きていたかというと、そうでもない。竹中工務店が神戸に進出して、煉瓦造からコンクリート造、鉄骨造を学んで、もちろん建築家の設計した建物を施工する中からも学 んでいって、設計施工というスタイルを築く中で、「飛び抜けた新しいもの」とは違う「自然な新しいもの」を目指したのだと思います。「飛び抜けた新しいもの」とは同時に間違う 可能性を孕むと言うか、デザインはいいけれども建築としてはいろいろ問題がある場合 もあるわけですよね。そういうものにならないようなチェック機構がちゃんと働いている中で新しいものを模索している。この線は、これからもぜひ続けていかれるといいと思っています。———経営理念にある「最良の作品を世に遺し、社会に貢献する」の「最良」とは、見渡してみて、その中で一番いい選択をしなさいということなのかもしれません。馬場 いや、むしろ、「最良」を選択するためにも、やはり「創造」ではないかと思います。お手本がない中で新しいものをどう創っていくか、未知の世界に常に遭遇しながら進んでいることが「最良」を生みだすと考えます。戦後日本というのは、明確な目標にどこまで近づけるかということが重要だったわけですよね。ところが、そうでないあり方が建築の Interview
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