DESIGNWORKS Vol.19
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馬場 「建築作法」といってもいいと思うんですよ。作法は学ぶものじゃなくて身につけるものですね。例えば、建設現場などでは朝礼をやりますよね。大切な仕組みだと思います。それが形骸化していってしまう部分もなくはない。作法がただの繰り返しになると、逆に緩みになっていろんな事故になったりする。そうでなくて形骸化しないことは何であるかということを常に考える。繰り返しで同じことをやるのではなく、一期一会じゃないけども、新しい気持ちで常にぶつかっていくということが建設現場でも設計でも必要であると思いますね。———建設業そのものを近代化するというためにTQMやISOがありましたが、竹中藤右衛門が建設業協会(Building Contractors Society)を設立して、建設業そのものを古い体質から近代経営の方にシフトさせた功績があったと思います。そのあたりはどう感じられましたか。馬場 BCS賞※4ができたのも、ちょうど私が新建築に入社したのと同じ頃でした。建設業とはやはりものをつくっていくのだということを、自分たちが認識すると同時に、それを社会にどう知らしめていくか、そのことが重要だと考えています。グローバル化と設計施工———竹中藤右衛門の時代、つまり創業の時代から第二次世界大戦あたりまでは、新しい建築自体が社会的な話題を集めた風潮がありました。しかしながら、戦後の竹中鍊一相談役の時代というのは、点から面にシフトしてきた経緯があります。例えば、竹中工務店自体が事業者になったOMM※5など、ビルを経営するといったように、ハードからソフトになってきた時代がありました。そこから更に、現在の統一社長の時代で、いよいよ国を超えてグローバルになってきました。馬場 例えば工業製品は非常に展開が速く、情報はもっと瞬時に移動できるわけです。ところが建築は動かない。プレファブ住宅なら移動できるけれど、基本的にはそれぞれの国、地域といった個別の場所につくる。むしろ、この場合動くのは知恵です。ただ、現地の材料や習慣とか、いろんなものがありますよね。それらに対しての知識を持って、活躍できる人材を確保するなり、養わなければいけない。竹中工務店が外国に進出するかどうかは別にして、むしろ設計施工の形というのは、これから海外で広がっていく可能性があると思います。なぜなら、建築以外のものはみな設計施工なのです。例えば、洋服でもデザイナーが自分で縫うわけではありません。にもかかわらず、デザイナーの名前で統一されたブランドで売っています。車も同様です。デザイナーと作り手が一緒になって、クライアントに価格を提示するのがビジネスとしては常道で、むしろ今の建設界のほうが社会常識を外れています。とくに要求性能が複雑になってくると、デザインだけでは済まなくなってくる。とにかく一括して提示するスタイルが、本当は社会の中ではあるべき姿ですよね。設計施工か、設計施工を分けるという議論で大阪マーチャンダイズ・マート※4 BCS賞:優秀な建築物を造るために、設計のみならず、建築主の理解や、施工者の施工技術も重要である、との理念に基づく賞※5 OMM:株式会社大阪マーチャンダイズ・マートの略称。天満橋駅の地下化に伴う跡地の再活用のため、1966年に大阪市、京阪、竹中工務店などが出資する第三セクター「大阪マーチャンダイズ・マート」を設立し、コンベンションセンターを建設した。はなく、とにかくデザインと施工とが一緒になった形で、クライアントと協議をする必要が出てくると思いますね。建築の「21世紀」を迎えて馬場 日本は今、人口が少しずつではあるけれども減少傾向にあります。そのような日本の現状、社会的状況に対して、これまでの量的拡大から、質的向上へと転換する必要が求められているわけです。しかしよく考えてみると、それは、竹中工務店が戦後一貫して取り組んできたことだと思うのです。21世紀というのは、本来は、そのような質的向上の時代でなければならないと思うのですが、日本社会はまだその段階に入っていません。その意味では、今もまだ、20世紀のままなのです。———2012年の現在においても、まだ21世紀に入っていない、というわけですか。馬場 20世紀に起こったことを思い起こしてみましょう。例えば、ル・コルビュジェがドミノシステムを提唱したのが1914年でした。しかしながら、社会全体の流れ、建築全体の流れとして、一般に近代建築が実現したのは、1926年のバウハウス・デッサウ校舎の完成以降であって、その意味では、20世紀に入ってから四半世紀も後ろにずれ込んでいるわけです。21世紀に入っても、社会としてはまだ20世紀のままであるというのは、そういう意味です。建築においても、まだ20世紀のまま留まっていて、本当の意味で新しい建築が実現するようになって、初めてInterview
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