DESIGNWORKS Vol.20
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Interview伊藤毅氏に聞く都市のテリトリーからみた現代建築今回はオフィス・商業系の建築を特集しています。東京大学の伊藤毅先生には、インタビューに先立ち、京都の京都銀行茨木ビルとロイヤルパークホテルザ京都、東京の八重洲共同ビルと東急プラザ表参道原宿をご覧頂きました。都市の中で建築はどうあるべきか、ご専門の都市史・建築史からみた竹中工務 店の作品についてお話を伺いたいと思います。伊藤 4つの作品がそれぞれ京都と江戸の中心街と郊外というセレクションで、大変面白かったです。京都銀行茨木ビルは本来町屋の建っていた場所ではないけども、その後の発展の中で、駅前に奥行きの深い敷地が生まれてきて、町屋をヒントにしながら現代建築を作ろうということでスマートな解決をしていました。通庭として位置付けた、上から日が差す立体的な外部空間、米杉の千本格子は室内に対して木の暖かさを活かしながら外に対してのフィルターとし、表通りに対しては桟敷のような部分を突き出して都市に参加する場所を作っているという構成には、好感が持てました。コンクリートの庇やうだつの様な壁なども、歴史家にとってはわかりやすい。本来町屋は通庭を東側に配置するものですが、逆の西側にしてしまったのがちょっと残念かな。ちょうど敷地の東側にけものみちがあったので、それと組み合わせながら解決ができたら面白かった。ロイヤルパークホテルに関しては黒く落ち着いた外壁をベースにしながら、京都市の条例で規定されている庇を利用して、高さを抑えた低層部分の都市への介入の仕方と、デザイン上縁を切った形で客室階を明快に現代建築と歴史———今回は、伝統建築の様式を現代建築の中に解釈することを試みていた作品が多くありました。これまで、「建築に歴史を参照する」ということは、どのような感覚としてとらえられていたのでしょうか。伊藤 現代の歴史の参照のされ方と、近代以前のされ方はだいぶ違っていて、日本の場合、古代から近代以前にいたるまでは、有職故実や年中行事が有効に働いていまして、主に貴族の室内の調度品をどう置くか等を記録に留めていました。宗教建築も基本的には法ほう会えを行うための記録を残しています。参照するというよりは歴史そのものと直結していて、データベースとして彼らは持っていた。ところが産業革命以降の歴史のあり方というのは、明らかにそれまでとは違っていて、我々にダイレクトには歴史はつながらない。連続性のない状態で歴史を参照しようとしたのが、いわゆるポストモダンであったり歴史主義であったりということになると思います。でも、どのように歴史を参照するかについては様々なアプローチがあるはずで、その中にはすごくいいものもあるでしょう。今回の作品は、一見直接的に町屋を参照したように見えなくはないけれど、実際出来上がった建築を見ると、そういうのは解消されていく方向になりますよね。やっぱり現代建築を作らないといけないから、町屋からヒントは得ているけども、そのものをつくっている訳ではないので、 その匂いは消えて、現代建築としてのある質を持ちますよね。八重洲のオフィスビルも、分けているのが良かった。条例で規制された壁面って意外とつまらない解決をされてしまうことが多いのですが、通庭の様な土間や、部屋の中などいろんなスケールで雁行部分が繰り返し出てきて、なかなかいい設計でした。京都の三条通りっていう土地の持つ潜在的な力と、ホテルのキャパシティの両方を上げているという意味を含めていい解決かなと。ホテルの裏手の表情の異なる通りに対してこの建物がもう少し応答しているともっと良かったです。東京の八重洲共同ビルは、京都の作品が町屋だとすると、こちらはミニマリズムの数寄屋みたいな感じがして、厳選した素材をきれいなラインで構成していて、洗練された都市建築という風に受け取りました。僕らの分野から見てよかったのはサンクンガーデンみたいな公開空地です。普通、地下と地上は完全に切られてしまうことが多いわけですが、エスカレーターや階段でつなぎながら、視線も地下2階まで見通せる。大気は地下の方に流れ込んでいくし、光や音は地下から漏れてくる。都市とその敷地との媒介項っていうんですかね。町屋の場合だと庇や格子がつなぐ場所になるのですが、これはオープンスペースを都市につないでいく1つのいい例ですね。これから竹中さんが手がける都市建築のテーマだと思います。うまくいけば容積も増やせるし、今までのただの空地みたいなものじゃなくて、商業をやりながらそういう場所を作れたら、楽しくなりますね。建物の周りに小さな居酒屋が密集していて、そのスケールともすごく合っていました。京都銀行茨木ビルロイヤルパークホテル ザ 京都東京建物八重洲共同ビル写真:古川泰造写真:古川泰造写真:小川泰祐Interview

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