DESIGNWORKS Vol.20
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防波堤を求めていますけど、そんなことをしていたら日本は破産してしまう。手はかかるかもしれないけど、小規模・ローコストでしっかり地域を守っていけるようなかたちの都市でなくてはだめだと思います。沼とスモールインフラっていうのが僕の頭の中で、将来のネクロポリスの情景として浮かんでくる。インフラとネットワークと言う観点からだと、南フランスにバスティード※1という中世都市が300箇所くらい現存しています。規模はすごく小さくて、人口は800~2000人程なのですが、農村ではなく都市なんです。広場もあって、快適で豊かな生活を送っている。19世紀以降、ロンドン、パリ、NY、東京などの都市がメガロポリスとして成り立ってきたのとは、違う路線を行っている都市がヨーロッパにはたくさんある。小さい都市が散らばりながら、ネットワークを持っていて全体としてある機能を果たすようなアイデアがあって、オランダのフリースラント※211都市は、バスティードと同じように中世に成立した都市が、バラバラに存在しているのですが、何年かに一度、寒い日に凍った11都市の運河を、スケートで巡るという一大競技があるんです。死人がでることもあります。普段は別々で存在しているのですが、都市が群として存在している例で、コンパクトシティのひとつのあり方だと思います。小さな都市に役割分担させる発想で良いのかもしれないですね。ある都市にはアカデミーがあり、ある都市には港町、という風に補い合って。今はどの都市も同じような機能を備えていないといけないとい う発想だから、東京みたいになんでも揃う都市に慣れてしまうと難しいかもしれないけど。———最後に、私たち竹中工務店という建築集団に対して、今後どういう視点での発展性があるべきか、ご意見いただけますか。伊藤 大組織はある範囲の地域に強いと言いますか、いろんな事例を持っていますよね。個人設計事務所だと事例数も少ないですが、その圧倒的な事例数の有利さを還元すべきだと思うんです。それぞれのプロジェクトをメタレベルから見れるような視点ができるはずですよね。日々の仕事の中で、インフラから建築まで考えることができる人材と組織だと思います。海外を見渡してもないですよ。日本の設計組織が持っている潜在力ってのは大変なものがあるから。可能性は大いにあると思います。これだけ若い人が活躍されている会社なので、ぜひ21世紀を切り開いていただきたいですね。———本日はありがとうございました。(聞き手:米正 太郎・垣田 淳・渡辺 豪・岡田 朋子鈴 晃樹)フランス、バスティードのアーケード※3中世のフリースラント11都市のひとつ※3伊藤 毅(イトウ タケシ)/都市史家1977年東京大学工学部建築学科卒業1984年東京大学大学院博士課程修了1984年東京大学助手1994年同大学助教授1999年コロンビア大学客員研究員2000年東京大学大学院工学系研究科建築学専攻教授現在に至る著書『近世大坂成立史論』(生活史研究所、1987)『都市の空間史』(吉川弘文館、2003)『町屋と町並み 日本史リブレット35』(山川出版社、2007)『バスティード ーフランス中世新都市と建築』編著(中央公論美術出版、2009)※1 バスティード:中世に出現した一群の都市集落の総称。一定の共通した成立事情や形態的特徴を有する歴史的な都市類型である。実例は南西フランスを中心に300以上確認されており、中心に広場を備えた明瞭な直交グリッド状の都市プランが多く見られるなど中世の新都市として特異なグループを形成している。※2 フリースラント州:オランダ内で唯一オランダ語の他にフリジア語を公用語とし、住民も他から区別して少数民族フリース人と呼ばれるなど文化的に他の州と異なる点が多いのが特色。州内には、古来より先進的であったことで知られるオランダの利水技術の起源とされる人工微高地上の集落テルプ(terp)が数多く現存している。※3 東京大学伊藤研究室提供。Interview

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