DESIGNWORKS Vol.21
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Interview辻吉隆氏に聞く超高齢社会における病院建築今回は医療・福祉系の建築を特集しています。日本が超高齢社会※1を迎え、様々な課題が浮彫になる中、病院建築の方向性もわかりにくくなっています。これまで、数多くの国立病院の設計に携わってきた元厚生労働省大臣官房会計課施設整備室長であり、現在は竹中工務店医療福祉本部に在籍する辻吉隆氏に病院建築の過去~現在~未来についてお話を伺いたいと思います。今日までの病院建築の潮流———はじめに辻さんのこれまでの取り組みを振り返りながら、今日までの病院建築の潮流を語って頂きたいと思います。辻 現在に至るまでに病院建築に対する考え方が時代に合わせてずいぶんと様変わりしてきました。私が病院建築に携わり始めた1970年代頃は、病院整備のための予算も少なく、病院を量的に整備することで精一杯でした。当時は、病院の面積は1病床当たり50㎡程度でしたが、その後1年に1㎡ずつ右肩上がりに伸びてきました。その結果として近年ではおおよそ1床当たり90㎡近くまで充実してきています。'80年代から今日までの病院建築の潮流は「インテリジェントホスピタル」、「アメニティホスピタル」、「クリーンホスピタル」、「グリーンホスピタル」とおおよそ10年ごとに流動してきており、そしてこれからの流れは「超高齢社会」を時代の潮流として捉え、医療施設計画の考え方を大きくシフトしていかなければいけない時代になってきています。また、手術室からICUに運ぶ動線をいかに短くするかという配慮ももちろん重要なポイ ントです。そして「グリーンホスピタル」の潮流の中で、サスティナブルな循環型社会を目指して自然環境に優しい病院づくりに取り組まれるようになってきました。同時に緑を病院の中にも取り込む動きも顕著になってきています。 私は、これまでにも「ガーデンホスピタル」を提唱してきていますが、国立成育医療研究センターでは、病院と研究所で囲まれた中庭を歩行者だけの「成育ガーデン」として成立させています。この庭園は砧緑地から世田谷区の運動公園をつなぐ緑陰歩道の延長線上にあり、病院利用者や近隣の人たちが常時公園として利用することができます。病院を施設化せずに、庭園を媒体として社会とつながって、普段の生活の中に病院があるという仕掛けをつくっています。これまでの病院建築の潮流について簡単に話してきましたが、この先の'10年代には「超高齢社会の大きな波」が来てしまいました。高齢者は回復が遅く、慢性的な疾患や合併症を有している場合が多いので、完治は望めず、病気と一緒に共存することを考えていかなければなりません。病院を出て家庭に帰っても、また病院に戻って来るというサイクルをしばらく繰り返していくしかありません。すなわち病院というのは病気を完治する場所と言うよりも、患者の生活・QOLを支える施設になっていかなければいけないし、生活を支えるためには、もっと社会に開かれた施設になっていかなければならないだろうと思います。私がこれまで携わってきたことを時代の流れに沿って、もう少し具体的にお話します。'80年代は「インテリジェントホスピタル」の時代で、いかに病院を高機能化し、ITを導入していくかを競った時代です。'90年代は高機能に加えて患者に優しい病院づくり「アメニティホスピタル」が提唱されました。この頃にチルドレンズモールを持った、子供と家族にやさしいファミリーホスピタルとして国立成育医療研究センターの計画が始まりました。また早稲田大学の古谷誠章先生等との病室の療養環境研究会では、全てのベッドの足元に個人的な窓とカウンターを設けて、患者さんが外を眺めながら心豊かに療養できる「サンデッキ型病床」を徳島県の近藤内科病院で提案し、実現しています。そして、2000年頃からは「クリーンホスピタル」や「グリーンホスピタル」がキーワードになりました。伝染病予防法が1999年に廃止され、新感染症法が制定されたことで、感染症病室の計画指針が必要となりました。感染症を専門にされている医師や看護師の方々と我々病院建築の専門家が集まって、「感染症病室の施設計画ガイドライン」をつくりました。感染管理についての多くの研究や勧告が出されていく中で、手術室の計画論もいろいろ変遷を辿ってきましたが、麻酔薬の進歩に合わせ、手術前の患者さんに不安感を与えない手術室の環境づくりを目指して「ウォークイン型手術室※2」の計画手法を国立国際医療研究センターの整備の中で提唱し、実現しています。国立成育医療研究センター※A チルドレンズモール※7近藤内科病院※B サンデッキ型病床国立成育医療研究センター※A 成育ガーデン※7写真:松岡満男Interview
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