DESIGNWORKS Vol.21
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「快適なスタッフ環境」という3つがキーワードになるのではないかと思います。個室は治療上の有利さに加えて、患者さんの尊厳やプライバシーの上から、また家族との触れ合いの上から、重要視されてくるでしょうね。米国では2006年あたりから100%個室でないと病院として認めないということになっています。少しずつアメリカナイズされてきた生活をしている今の日本人はやはり個室を選択していくのであろうと思いますが、建築的に考えると看護の動線が長くなってしまうことや、面積が増大してしまうことへの課題が残りますし、医療費にも跳ね返ってきます。また、患者の高齢化に加え、入院期間が短縮されるということは、高齢の急性期患者が増えていくことになります。すなわち高齢で免疫力が低下した合併症の患者を、昼夜切れ目なくケアをしていかなければなりません。ややもすれば、夜間にも昼間と同じ看護力を要する患者をケアするには、必然的にナースステーションから限りなく近い位置に病室を配置する必要があります。この点に配慮した病棟計画を「ハイケアユニット型」と呼んでいますが、医療上のHCUではなく、建築計画的な工夫でハイケア的に看護のできる病棟という意味で使っています。事例としては、国立国際医療研究センターでも試みましたが、さらに顕著な事例としては北里大学病院において、ハイケアユニット型の病棟が施工中です。この病院ではそれを「ナースホール型」と呼んでおり、ナースの拠点を10~12床の病室群の中心に分散配置して、病棟中央に在るメインのスタッフステーションのサブステーションとして計画されています。には貢献してきたけれども医療費やスタッフのストレスの問題等から欠点もみえてきて、反省時期に来ているようです。日本ではAARや全室個室化というのは、仕組みとしても物理的にも難しい面がありますが、もうすこし違った建築計画的な工夫、あるいはデザイン的な工夫で、ハイケアユニット型の病棟計画ができるのではないかと考えています。3つ目のキーワードとして、「スタッフのための快適な環境」の整備が必要になると考えています。スタッフのモチベーションを高め、パフォーマンスを確保して、最適な医療の提供をするということです。それが結果として患者の満足度につながっていきます。同時に、高齢者の患者はいくつもの慢性病を抱えており、診療科目別ではなく、全科のスタッフが協力して、チーム医療、チームナーシングを行う仕組みが必要になってきています。この点に注目して、スタッフの快適環境やチーム医療の診療体制がとれるように建築設備面で具体化しているのが、伊勢赤十字病院ですね。当病院では、病棟階の中央部に、スタッフ専用の豊かなしつらえの「オープンカンファレンス」が設けられています。ここは病室ゾーンから独立しているため、患者さんの視線から離れてリラックスできる空間にもなっており、スタッフの緊張と緩和のバランスをほど良くコントロールしています。このオープンカンファレンスは3層吹抜けており、各階の全スタッフが顔を合わすことができます。多職種同士のコミュニケーションや一体感を醸成し、チーム医療の体制が自然と取りやすくなっています。しかし、現在の看護人員では分散配置がなかなか困難な課題になっています。将来には大学病院のような高度急性期病院※4では、現在の2倍のスタッフでも経営が成り立つ診療報酬体系に移行していこうとしていますが、今しばらくは病院からの持ち出しにならざるを得ないのではないでしょうか。米国では10年ほど前から、急性期から退院まで同じ部屋でケアの出来るAcuity Adaptable Room(AAR)※5個室とした病棟計画が一般的になってきています。米国では看護師の数が日本の5倍近くも配置されていることから、分散配置しても十分なケアを行うことができます。AARの多くでは2室の病室を同時に看視できるカウンターを設け、そこに看護師を分散配置してケアを行っています。これにより、患者さんを病室移動させることなく安全な治療が行える上に、プライバシーやアメニティの向上に効果を奏しています。AARの特徴としては、個室の中に3つのゾーニングがされていて、廊下側から診療ゾーン、中央に患者ゾーン、そして奥の窓側が家族ゾーンとなっています。家族がケアに参加することにより患者さんの回復が早まるというエビデンスに基づき、家族が病室内で付き添える十分な広さやしつらえが整えられています。日本の場合、診療ゾーンも十分ではない上に、家族ゾーンまで確保するのは大変ですね。米国では、スタッフが多いのでこのシステムを取り入れることができているのでしょうが、医療費もそれだけ高いものになっています。国としてどちらを選択するかということですね。米国においても、ここにきてAARは、患者ケアAARの事例※7伊勢赤十字病院伊勢赤十字病院 オープンカンファレンスInterview
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