DESIGNWORKS Vol.21
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私が関わった改築計画の中で難しかったのは、個室的多床室※6を取り入れた病室を他の用途に改修する計画が出された時です。病棟は将来とも変化がないだろうとの判断で、外壁に凹凸のある個室的多床室で計画していました。凹凸により廊下側の病床にも窓が設けられるので患者さんには好評でしたが、いざ他用途に変更しようとすると、この凹凸が障害になってしまいました。病棟だからといって、不整形なプランは将来へのリスクをはらんでいることを承知しておく必要がありますね。———病院の建替について、葛飾医療センターと刈谷豊田総合病院を例にお考えをお聞か せ下さい。辻 葛飾医療センターは隣地に一括で建替えをして、既存病院跡地をオープンスペースとして駐車場と緑にしています。こうすることにより、伊勢神宮の式年遷宮的な方式で、将来的にも永遠に建て替えを繰り返していくことができますね。また、当センターの病棟は、当初はシンプルな4床室として使い、将来的に半分に割って個室にする方法とされていることから、将来のリスクが少ないように思います。一方、刈谷豊田総合病院では1963年から40年近く建物をずっと使い続けていましたが、ついに限界に達して1998年くらいから建替えを始めてきています。限られた敷地内での建替えのために、14年以上経ってもまだ工事が続いています。両者はどちらも病院建替の代表的な例ですね。どちらが良いというのはないですが、どちらも病院の立地が変わってウムには空中廊下が何層も走っていて、明るい光の中で巨大なアート作品やモビールが漂っています。また、病室がアトリウムの内側に面しています。「外気に面していなくても大丈夫ですか」と聞くと、「病室の窓は開けないことになっています」と。日本の場合は換気と排煙のために窓を開けなければならないと規定されていますが、海外では、空調バランス保持のために病室の窓は開けてはいけないとされていることもあります。この病院のコンセプトは「病院を地域から孤立させないこと、地域の人々が病気でなくても気楽に立ち寄れる場所となること」としています。厳しい冬のロンドンの地で、市民もアートのあふれるアトリウムのカフェに気軽に立ち寄ったり、病院の催しに参加したりしています。一方、サンディエゴの小児病院では、温かい地域性を反映して、外に向いて開放的に作られており、各病室からテラスに自由に出られるようになっています。このように、国によって法的な基準などで異なる部分はあるのですが、寒い地域ではインナーアトリウムを設けたり、暑い地域では窓を開けて外部と繋がったつくり方とするように、地域の環境に合った形式を選択し、快適な場所を作っていく必要があります。それが病院として、また建築として基本的なことであり、重要なことだと思います。今後の病院建築の行き先—生活の一部としての病院———今後の病院建築の行き先としてどういうことをお考えですか。いません。同じ場所にあり続けることは、地域の人にとって安心感につながることから、案外重要なことでしょうね。もう少し細かくハードの話をすると、建物の躯体は変えずに中のレイアウトを変えていけるように、サスティナブルでフレキシブルな極めてエンジニアリング的な解決をしなくてはいけないことも出てきます。病院建築は他の建物と違って、これまでダイナミックな変化を余儀なくされてきました。これは医療制度や基準、廊下の幅、病室の面積基準等が変わることにより、建築が追随できなくなっていったことによります。機器の変化、医療の高度化というのもあるでしょうが、その変化要素を飲み込むような工夫、例えば柱のスパンを飛ばす、扁平梁やフラットスラブを用いるとか、また設備シャフトを外部に設けて変更に対応し易くする等のミクロ的な視点で検討を重ねるところはゼネコンの得意なところだと思います。そういう総合力が成長と変化のための重要な要素だと思います。海外の病院建築のデザイン———海外の病院で印象深いものがありましたらお聞かせください。辻 イギリスのチェルシー&ウェストミンスター病院は、地域の中小病院を整理統合して、新たにつくられた病院なのですが、優れた診療機能とともに、アメニティの高い病院づくりがなされています。コの字型の高層病棟が並べられ、中央がアトリウムとなって、半透明のテント屋根がかけられています。アトリ東京慈恵会医科大学 葛飾医療センター刈谷豊田総合病院チェルシー&ウェストミンスター病院※7写真:吉村行雄写真:SS名古屋 上田新一郎Interview
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