DESIGNWORKS Vol.22
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9月19日、当社東京本店で4回目となる「竹中環境シンポジウム」を開催しました。現在、国は地球温暖化防止、循環型社会形成、森林保全及び地域経済の活性化のため、「公共建築物等木材利用促進法」を制定するなど積極的に国産木材の使用を奨励しています。当社もこれに賛同して積極的な木材活用を実施しており、今回は木造・木質建築をテーマに社内コンペを行い、59件の提案の中、選考に残った7つの提案をプレゼンテーションし、有識者を含む社内外パネラーとの討議を通じて内容を深めました。シンポジウムは、東京本店ホールと7カ所の本支店とをTV会議システムで結んで、お客様や社外有識者の方々約70名を招き、200人以上の従業員が参加し開催しました。第一部では、林野庁林政部木材産業課長 渕上和之氏の来賓挨拶に続き、「木造住宅から木造建築へ」と題して東京大学生産技術研究所教授 腰原幹雄氏が基調講演を行い、続いて当社社員による木造・木質建築の取り組みや実施プロジェクトの紹介を行いました。第二部では、7つの提案から選ばれた最優秀1作品、優秀2作品の発表者と、パネリストの小玉祐一郎氏(神戸芸術工科大学 教授)、松村秀一氏(東京大学工学部建築学科 教授)、腰原幹雄氏(前述)、当社役員2名と共に熱心なパネルディスカッションションを行い、充実した討議が行われました。総評 審査委員長:小玉祐一郎氏 「建築分野における木材活用」が現代のキーワードになってから、随分久しい。しかし、木材という魅力的な材料の需要が急伸したわけでもなく、とりわけ国産材の需要は伸びず、関連産業の活性化にもならず、森の安定による治山治水の状況が好転したわけでもない。供給サイドと需要サイドの連携が叫ばれ、様々なレベルで多くの検討委員会が設けられながら、問題解決が進捗したとも思われず、停滞感の印象もある。その間に東日本大震災が起きて、その復興に地場産材を使い、地域活性化の起爆剤にしようというプロジェクトも数多く立ち上げられているにもかかわらずー、である。このような時期、あらためて木をテーマにしたアイデアコンペが企画されたのはタイムリーであった。「安全・生産流通・復興などに貢献する、木造・木質建築」という募集要項に示された長文の課題は、やや苦し紛れで、問題の広さ・奥行きの深さとともに、複雑に絡みあう多極化した焦点のありようを示しているが、「どこを切り口にしてもよいから、この拡散し複雑化した問題の隘路を打開するアイデアを示せ」との熱い要求が込められているとも受け取ることもできる。木造の安全性―耐震性・防火性の確保はもはや伝統的ともいうべき技術課題。近年の新たな展開には、目を瞠るものもあるが、なお壁は高い。また、生産流通性の非効率は国産材利用を阻む積年の課題とされながら、政治的・行政的な絡みもあってか、なかなか進まない。いずれにせよ、問題をブレークスルーするためには、木造建築の付加価値を更に上げることが必要で、木を用いることによって新たに生ずる都市や建築の潜在的な魅力を引き出し、示すことが重要だ。3.11の原発事故以後の、逼迫したエネルギー事情ゆえに影が薄くなった感がある地球環境問題だが、エコマテリアルとしての木の重要性は相変わらずだ。59の提案は、上述した課題の広さに対応してバラエティに富み、最終選考に残った7つの提案も、ウエイトの置き方こそ違え、複数の視点を併せ持っていた。「屋上木化」は都心のオフイス街の屋上に住宅地を組み込み、人が住む街のにぎわいを取り戻そうというアイデア。増築の容易さだけでなく、木の持つ親しみやすさ、やわらかさが都市の表情を整え、変えるかもしれないと期待させる。「temporary forest」もまた、都市景観に木材を組み込むアイデアだが、新築時の仮設足場に間伐材を利用し、それらの本設への転用も図る。転用する先のデザインをあらかじめ考えておく先見性も要る。「クム・ツナグ・ヒロガル」は構造材としての木材の可能性を発展させたスケルトン・インフイルシステムの提案。インフィルの更新とともに、恒常的な木材需要を確保するという遠大な戦略も秘められる。「ウダツ」は木造密集地の街としての魅力を温存しながら、致命的な欠陥とされる耐火性を付加する意図が、プロジェクトのネーミングに込められた。意図した魅力が達成されたかとの意見もあった。「木層建築」は、伝統的な構法の教えにならい、木材の材料としての物理的・感覚的特性をフルに引き出すことを意図し、とりわけ環境制御に役立て、繊細で、気持ちの良い空間の形成に役立てようとする提案。木の魅力はなお深い。「自動車産業の動向を見据えた木造提案」は、清潔・安全な電気自動車の普及を見越して車と建築の関係を見直し、木造の新たな需要をも引き出そうという提案だが、車と建築の関係はもっとドラスティックに変わる予想もある。「東京湾木材文化中心」は、文字通り、木の文化・技術にかかわる情報発信基地の構想。将来の循環型都市のモデルを示そうとする提案だ。埋立地を環境体験の森にする計画もおもしろい。これらのアイデアが、関連する他の分野にも浸透し、刺激し、木造・木質建築を活性化する力となることを期待したい。竹中環境コンセプトモデル建築コンペティション2012「-安全・生産流通・環境・復興などに貢献する-これからの都市における木造・木質建築」優秀作品:ウダツ最優秀作品:屋上木化優秀作品:木層建築Special IssueSpecial Issue02

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