DESIGNWORKS Vol.23
6/36

小林 たしかに、浮遊するボリュームや変形したボリュームとして建築を作っていくというのは86年の時点ではあまりなかったやり方ですね。 ボリュームを浮遊させることができるようになった、あるいは表現は、近代のものなんでしょうね。小林 でもピロティやキャンティレバーというのは近代建築の思想ですよね。86年の分析の時は、竹中らしさが見えるものという目でみていますので、逆にピロティのような作品は抜いています。これは都市空間への配慮みたいなものがかつてあまり見いだせなかったという話とも関係していて、敷地をいっぱい使って外壁を地面までおろすと、都市空間への配慮というようなものもあまりでてこない。建築を浮かせてはじめて空間ができて都市とつながるというか、そこから内外の反転みたいなのが出てくるんでしょうね。外をしっかり作ったうえで、建築の内部空間を外とつなげたり、外部を取り入れたいと思った時に、内外の反転という形で内部に外部空間を取り入れている。その結果が特徴として見えてきているのではないかと思います。 客家文化センターを7つの鍵の視点からみるとどうなるでしょうか。小林 ファサードの自立ということでは、中庭の部分とか、池に突出したボリュームにファサードの自立の発展系としての門型がみられます。天井には三角形のポツ窓があります。曲面はもちろん、全体が曲面形ですね。また、いわゆる勾配屋根ではないですが、水平な屋根の線を強調するというのが、先ほど申し上げた屋根の強調の一つの発展系ではないかと考えると、水平屋根もみられますね。内外の反転ということでは、展示室以外の空間全体がある意味非常に外部的な空間ですので、そういうところに見られる。装飾的細部、これはなかなかちょっと見当たらない。ピクチャレスクは、86年の分析とは違いますが、先ほど申し上げた斜めの柱を伴った森のような空間が該当すると考えています。また、7つの鍵ではとらえきれない部分として、地形への配慮や変形したボリュームによるダイナミックな空間構成などがあります。ズレのありかた 86年の記事の中では、デザイン潮流との微妙なズレこそが竹中らしさを生んでいると定義されていますが、現代のデザインワードとしてあげられるフレームや水平ライン、浮遊するボリューム、構造形式の表現という視点で作品を見ていくと、竹中工務店設計部のデザインがちょっとずれていたところから、今日の建築デザイン潮流に対して割と沿ってきているといえるのでしょうか。小林 そうですね、誤解のないように言うと、ズレという言葉は全く悪い意味では使っていません。竹中なりのいろんな作品、オフィスビルであったりキャンパス計画であったり、そういうのを考えていく中で、60年代あたり世の中がダイナミックな造形を追及している流れに対してポツ窓的なものが強く表れていたりとか、70年代に建築全体が抽象的、論理的なものになる中で装飾性を際立たせる傾向のものがつくられたりとか、あるいはポストモダニズムの中で装飾的な要素がある建築がすごく広がっているときに第二国立劇場コンペ案のように過度のデザイン性を抑えた作品がでてくるというような、「ズレ」が面白いと感じていました。世の中と逆方向というわけではないけど、ズレていないと「らしさ」って出てこないんですよね。意図的にずらしていくというわけでもないですが、世の中のデザインの大きな動きと微妙にズレたところに建築の良さがでているというのがこの86年の時点での竹中の建築の面白いところ、竹中らしさではないかと思いました。今日についていうと、もともと意図的にズレを追及していたわけではないですから、竹中の狙いと現代建築全体がかなり合ってきていて、現代建築の大きな流れを取り入れながらもむしろ高度に洗練させていくという方向になっているんじゃないかなと思います。洗練と着実 86年の論文に「論理的というより感覚的」、「大胆というより洗練」といった指摘がありましたよね。小林 論理的というよりは感覚的、大胆というよりは洗練、前衛であらんとするよりは着実さ、抽象よりは現象、といったことで竹中デザインが整理できるのではないかと思ったんですね。現在見てみると、例えば水平な線、あるいはボリューム的な表現による抽象性が高い作品というのが結構増客家文化センター 写真:小川重雄第二国立劇場コンペ案Interview04

元のページ  ../index.html#6

このブックを見る