DESIGNWORKS Vol.24
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JR成東駅九十九里海岸計画こども園既存幼稚園・保育園東日本大震災津波浸水範囲0km2km4km今回は、子供の生活空間を研究されている日本女子大の定行まり子先生をお呼びしました。千葉県山武市にて、太平洋沿岸に分散していた4つの保育園・幼稚園が、昨今の少子化と東日本大震災による津波への安全性確保のため統合され、沿岸から6km離れた場所に、2013年春しらはたこども園として開園しました。現地にて、設計者・保育士の方を交えながらの乳幼児の教育空間の今後の展望についてお話をお伺いします。 まず、建物を見ていただいてのご感想をお聞かせください。定行 図面だけを見た当初は、公共施設のような印象をもったのですが、実際訪れてみると、建物としての一体感があり、外周の庇や床・天井の高低差をうまく使って、子供たちの活動にあった空間づくりがされていると感じました。こども園だからといって、子供に媚びることがなく、非常に洗練された空間だなと思いました。子供の生活という観点からはいくつか改善点は見られますが、保育士側が使いながら運用で変えてゆくことができると思います。日本では、文部科学省管理下の幼稚園は学校施設なので、子供のすごす部屋は教室型の設計がされています。厚生労動省管理下の保育園は、幼稚園に倣う空間になっていればよいという傾向があり、今回のこども園も円型をした教室型といえますが、これに限らない計画もできるのです。例えば2LDKの家のような間取りにして、寝る部屋、遊びの部屋、食事の部屋、広場という構成にし、子供の興味や自立性、発達の違いに対応した空間作りが今後でてくるかもしれません。同じように、園庭=運動場という考え方も強いですよね。運動会が大事な行事なので、中央に平たく広いスペースを求めることになってしまいますが、奥にあった築山が園庭の中央にあるとしたら、子供たちの外での遊び方も変わる可能性があります。また、日本では年齢ごとに部屋をわける構成が一般的ですが、2歳児頃は3~5歳児を見て刺激を受け、自分たちもああなりたいと憧れる時期にあたります。外国では異年齢の子供を一緒に保育することが一般的です。プラン上0~2歳と3~5歳が中央の遊戯室を挟んで分かれていますが、異年齢同士の交流がうまくできると良いですね。 研究論文で、子供の単位空間の見直しをなさったという話を教えて頂けますか。定行 幼稚園は小学校と同じように教室単位で設計しますが、保育園は子供の単位面積で設計しますよね。2歳未満は、乳児室は1.65㎡/人または、ほふく室は3.3㎡/人という最低基準があります。でも、この最低基準は各自治体の条例で解釈されて、赤ちゃんは寝ているからと最低基準を1.65㎡/人にしているところもあり、問題となりましたが、厚労省の通達により、少なくても3.3㎡が基準として認識されました。待機児童を抱えている自治体では緩和が可能となっていますが、東京都や千葉県など、待機児童があっても、認可保育所では基準を割ることなく進めています。それでも、認可外では、2.5㎡といったように緩く設定され、待機児童の解消に繋げているわけです。この現状がいいかどうかが課題です。このようにあいまいな最低数値基準の設定のされ方に対して、科学的根拠があるのか調べてみようと考えました。住宅のように食寝分離をするスタイルを前提として、子供たちの生活に必要な寸法・面積を数値的に積み上げ、0歳児で4.11㎡/人、4歳児で2.47㎡/人という数字を割り出しました。 ほふく室の基準面積の3.3㎡よりは少し大きく出たわけですね。定行 実際、0~1歳児は大きく3つのタイプがあって、生後6ヵ月くらいまでは平行移動できず寝ているだけですよね。それからハイハイをするようになった子、1歳頃では立って歩く子も出始めます。3タイプの子供を1つの部屋で保育する計画が本当にいいのでしょうか。この年齢の子供は生活のリズムもちょっと違いますよね。ですから、寝ているときは寝られる場所の保障をしてあげる。遊びたいと動きまわっているときはそれを保障してあげる。食事の時間や寝て起きる時間も違うので、それぞれの子供のリズムを保障できるようにある程度考えてあげるといいかな。これが、さっき言った最低基準1.65㎡/人で何人も一部屋に詰め込んでしまうと本当にガチガチになってしまって改善の余地がなくなってしまうわけです。最低基準はあくまで最低基準なのに、一般基準になってしまっているんですね。千葉県の認定こども園の基準は0歳児は5㎡/人ということで、しらはたこども園の0・1歳室もゆったりしたスペースが確保されているので、今後いろいろ工夫ができると思います。 幼児施設と災害時の避難というのは、東日本大震災を機に、地域ごとに見直されています。今回のような避難を前提した施設計画についてどう思われますか。定行 避難訓練は実は子供の訓練ではなく、定行まり子先生に聞く 東日本大震災と幼児教育空間の現在Interview園庭 写真:勝田尚哉3~5歳児保育室 写真:勝田尚哉広域配置図Interview02N
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