DESIGNWORKS Vol.24
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親や保育士、大人の訓練だと言われています。子供は頻繁に避難訓練をうけているので、実は非常が日常に取り込まれています。「親が安心する距離感にあり、親が拠点とできる建物」であることが実は一番重要なのです。移転によって車での通園がほとんどになっているようですが、いざという時、親たちがどのようにここに集まるか、想定や情報交流をしておくべきだと思います。200人が避難できるという屋上の広場も避難目的だけではなく、日常でうまく使えるともっといいかなと思いました。佐藤(設計者) 保護者の交流という意味では、エントランスの前の広場やベンチがお迎えに来るお母さん方の居場所になっていて、ちょうど今頃は夕方いい風が吹くので、庇の下の日陰に座って、園庭で遊んでいる子供を見ながら親同士ちょっと過ごして帰られています。保育園児のお母さんは仕事で忙しく、幼稚園児のお母さんがPTA活動などで交流できるのに比べて、横の繋がりができにくいところがあるそうです。お迎えの場所がいいきっかけになっています。 震災当日以降は、統合前の4園では、余震のたびに近隣の小学校に避難するのが一番大変だったと聞いています。定行 研究室では震災後すぐ、東北各県の保育園・幼稚園を調査し、現在も交流があるのですが、調査の際に、「内装や照明が落ちそうで怖かった、窓ガラスは割れないと思っても揺れがすごくて、建物の中にいることが怖く、すぐ外に出たかった」という話を聞きました。大きな揺れが始まると外に避難し、収まると中に戻っていた園もあったようです。建物が地震に耐えられる設計になっていても、怖いんですよね。7・8割の保育士さんが本来の避難経路をつかわず、別経路で避難していました。建物の周園の空間や園庭にも余裕がないと、逃げ場を失ってしまうように感じるかもしれませんね。今回の震災を通して、保育園の避難行動に学ぶことが多いと思います。自力避難のできない乳幼児の子どもの命を守るために、地域を理解した様々な災害を想定し、綿密な避難対策をとっています。例えば、避難経路も幾つも考えており、今回の地震では道が塞がれていても、直ぐに別のルートを選択肢、避難しています。また、建物の中で、耐震性が優れた安全性の高い場所の確保に努めています。季節、時間、場所など、災害に直面した時の状況を想定し、徹底したリスクの認知・共有・対策が行なわれています。 4園が統合される前とこども園として開園した現在では、何が大きく変わりましたか。文化が異なる幼稚園と保育園が統合するというのは大変なことではないかと思います。佐藤(設計者) 移転に対して不安を抱えているお子さんもいましたし、保育時間も短時・長時と異なります。新入園児も入って、開園から3、4か月過ぎた今、お子さんたちがやっと自覚して慣れ始めたところだと聞いています。トイレのさせ方なども園ごとに習慣が違ったり、お昼寝の時間が短縮されたり、全員がランチルームに集まる昼食に変わったり、運営の仕方も大幅に変わりました。すべての行事に対しても建物に対しても、初めて取りまれるわけなので、今年1年がこれからのモデルになると思います。地域とのつながりも、これから模索していくところだと聞いています。 個別に園で培われた集団的なルールなどは一旦消去されて、これからもういちど手探りで作ることが必要なのですね。最後に、諸外国の取り組みなどについて、教えて頂けますか。定行 アメリカでは、0~5歳という乳幼児期の教育が経済学的・脳科学的に最も重要だと考えられています。というのは、大人になっても社会に適合できないマイノリティへのケアが現在社会問題となっていて、その経済負担を低減するために、これからは乳幼児期にしっかりした教育をするべきだというわけですね。それから、冒頭に紹介した、家のように間取りを分けた保育園は、スウェーデンなどで見られます。ドイツでは「ハウスマスター」という建物の管理・修繕を仕事とする公務員が各保育園にいます。子供たちはハウスマスターが建物のメンテナンスをするところを日常に見ることができ、工具のある部屋などに興味を示し、ものづくりを身近に感じることができています。「兵役か福祉か」というくらい、先進国ではこの2つに対しての国民に義務感が求められ、子供の教育環境の整備が重要視されています。日本では、待機児童の問題はもちろん、保育士さんの難聴比率が高いなどの問題があったり、子供の空間の環境的検証もまだまだ進んでいません。後追いですが世界の動きについていかないといけませんね。 本日はどうもありがとうございました。エントランス前の広場 写真:勝田尚哉(聞き手:岡田朋子・竹尾昌)(しらはたこども園設計者:佐藤琢 東京本店設計部)定行 まり子(サダユキ・マリコ)/工学博士1978年 日本女子大学家政学部住居学科卒業1981年 東京工業大学大学院総合理工学研究科 修士課程修了1988年 東京工業大学大学院総合理工学研究科 博士課程終了1991年 成城大学短期大学部1996年 日本女子大学家政学部住居学科専任講師1999年 日本女子大学家政学部住居学科助教授2004年 日本女子大学家政学部住居学科教授著書 『生活と住居』(光生館、2013)共著 『住生活論』(光生館、2000)共著Interview03

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