DESIGNWORKS Vol.24
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自発的な居場所を確保する一方、先生方の管理しやすさを両立させることに成功しています。また、そのことによって、休日も図書室を開放することが可能になりました。図書館に限らず、見通しのよい学校づくりを設計として様々に工夫することで、生徒だけでなく先生方にも大変好評です。國本(大谷学園 設計者) 大谷学園は、敷地のレヴェル差を利用した回廊型の片廊下形式が特徴です。片廊下形式は、日本の学校空間において、北側に廊下を通して採光の良い南側に教室群を配列するために、伝統的に採用されてきた形式です。今回は、建築主様からのご要望もあり片廊下形式を採用しつつ、敷地条件を活かしつつ、それらをロの字型に配列しました。その結果として、廊下が様々な中庭に面することになり、学校空間全体を豊かなものにしています。他に、自習スペースとガラス張りの職員室とを隣接させ、生徒と先生のコミュニケーションを活性化させることに成功しています。梅田 中学1年生と高校生とは年齢的にみて、発育上のギャップは大きいと思います。その意味では、中高一貫校と一口に言っても、それぞれの年齢に応じた学びの場を様々に設けることが重要になります。京産大では、デッキテラスに面している教室は全部中学生の教室にしました。生徒たちがそこでお弁当を食べ、教室から先生が見ている前で遊べます。開きつつ閉じるという設計手法が、その意味でも効いています。 学校と地域、環境との関係においても、外に開いていくという流れと、安心安全という管理ニーズとのせめぎあいがありませんか。梅田 一般論ですが、公立学校と異なり、一般的に私立学校は地域に開放する傾向が少ないです。また、移転計画の場合は、住宅地等の既存のコンテクストに後から参入するケースも多く、近隣に対して非常にデリケートな配慮が必要となります。設計当初は周辺街区に開くような検討を行いながらも、最終的に建築として成立させる段階で、例えばフェンスのあり方一つとっても、開放性の是非があらためて議論されるケースもよくあります。増田 特に関西では、池田小学校事件の影響も強く、街区への開放が心理的にも困難な状況にあります。ただ、無条件に開放することはできないにせよ、視覚的な連続性など、ポイントを絞って周辺の地域環境につながる設計的な手法はあると思います。堀 地域社会への貢献という意味では、少子高齢化社会を踏まえて、ボランティア活動や自然保護活動などの社会教育や生涯教育に広げる必要があります。一般生徒が通うだけではなく、社会人や高齢者の方々が学ぶ場になる取組みが広がりつつあり、学校と地域とのつながりが学校の社会的な役割となっています。梅田 それは建築的にも突破口になるかもしれません。開放できる場が中心にあって、そこから街に続いていくという形式があり得る。そういう意味でも、人を惹きつける中心の設計は重要です。 環境とのかかわりで、特に、学校施設自体が環境教育の教材になっている事例があればお聞かせ下さい。國本 大谷学園では、生徒自身がグラウンドの芝生を植えました。生徒自らが学校づくりに関わることによって、学校や自然という環境に対する愛着を育むという、教育的価値があります。他にも、屋上緑化として、生徒自身が参加できる菜園を設えました。これらは、緑化という環境的側面だけでなく、生徒に対する教育的側面が兼ねられています。 学校サイドの様々な立場の建築主のニーズを、設計者としてどう取り込まれているのかをお聞かせ下さい。増田 学校サイドの主体としては、経営者、企画・管理の方々、先生方、生徒があげられます。一般的には、企画・管理の方々と打合せをしながら企画案を作成し、必要に応じて先生方にヒアリングしたり、先生方も含まれる建設委員会での合意形成、重要な節目で経営者のご判断を頂くことになります。経営者、企画・管理の方々の中には、新校舎建設にあたって様々な先進事例を勉強されている方も多いです。梅田 そのような様々な立場や考え方、課題の中で、私たち設計者は調整役として、新しい学校づくりに参画する役割を期待されていると思います。 本日はどうもありがとうございました。大谷学園 片廊下に囲まれたデッキ広場 写真:稲住康広大谷学園 エントランス 写真:稲住康広堀千太郎(医療福祉・教育本部教育グループ)増田俊哉(大阪本店設計部)梅田善愛(大阪本店設計部)國本暁彦(大阪本店設計部)瀬山充博(大阪本店設計部)Round Table05(聞き手:米正太郎・渡辺豪・松浦真樹)
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