DESIGNWORKS Vol25
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カルムガーデン錦糸町パーク24目黒寮・目黒武道館三田ベルジュ今日は大阪市立大学の倉方俊輔先生に「住まう」空間をテーマにして建築の歴史的側面からお話いただけたらと思います。インタビューに先立ち、三田ベルジュビルとパーク24目黒寮・目黒武道館、カルムガーデン錦糸町、ジェームス邸を見学していただきました。都市における住まわれ方、自然における住まわれ方ということをキーワードとして、共存するということ、もしくはそれにおける幸福感とは何かというような社会的なニーズの変化に対して、今我々は住空間をどうしていくべきなのかということなどを、探って行きたいと考えています。住まう場を成立させる「設計作法」倉方 竹中工務店の作品を拝見して、現在というのは、ますます「あらゆる場所に住居を成立させること」が求められる時代ではないかと、まず感じました。三田ベルジュビルの場合、地上100m上空から住居が始まっています。カルムガーデン錦糸町では、100㎡しかない交差点脇の敷地がワンルームマンションになっています。パーク24目黒寮・目黒武道館では、限られた敷地の中に道場や寮が併設されています。関西ではジェームス邸を訪れて、住まうべき最高の敷地に昭和戦前期に竣工した住宅であることを実感しました。しかし、3作品はそれとは訳が違う。こうした前提から、今日は考え始めたいと思います。まず感服したのは、3つの作品がそれぞれに異なった形態で、みな巧みに成立していることです。三田ベルジュビルはシルエットが特徴的ですが、外装は抑制が効いています。中に入ると、オフィスに続くエントランスホールから、邸宅のようにチャーミングでした。それが上階の住居部分の存在を違和感の無いものにしています。都市景観に対する責任を引き受けながら、個人オーナーによる超高層ビルという特性が生きていました。カルムガーデン錦糸町は、一見、住居とは思えない格好良さでした。外観が繊細な直線で構成され、サッシやガラスといった素材が煌めく。コーナー部のLED照明ライトアップもクールで、最新の商業施設のような印象を受けました。住居らしからぬ佇まいは、入居者募集という点でも有利に働きそうです。そんなデザインを通じたクライアントへの貢献と同時に、より強く感じたのは、これが場所性へのスマートな配慮になっていることです。例えばここに単に和やかな住居が建ってしまったとしたら、周囲の歓楽街の張りがある感じを低減させてしまい、適切ではなかったでしょう。パーク24目黒寮・目黒武道館は、品位ある一体感が印象的でした。都道と商店街にはさまれた住宅地の変形敷地に柔道場と独身寮を併設するという難易度の高さが、形態の凝縮感に結実していました。加えて、特にエントランスから柔道場に続く空間と素材の扱いに、こうした新しいビルディングタイプを必要としたクライアントの意志が凛と表現されているようで、ここにしかない解答になっていると感じました。最初に申し上げた「あらゆる場所に住居を成立させる」という現代の与条件は、ともすれば野蛮な行為につながりかねません。「あらゆる場所」の各々に適切なあり方で、できる限り良好な住環境を住み手に届けていこうという意思が送り手の側に欠けると、都市性と人間性を損ねる結果となります。そんな直近の経済性に結びつかない意志を、送り手側にいる設計者が持ち続けることを「倫理」と呼んで良いでしょう。それが作品には一貫していると感じました。そして、この倫理を実際いかに成立させていくかという「設計作法」とも言うべきものもまた、竹中工務店の中で脈々と受け継がれているように思います。 「設計作法」とはどの様な事でしょうか。倉方 訪問させていただいた都市に建つ3作品は、いずれも敷地の性格、クライアントの特性、プログラムの独自性が設計に織り込まれて、建築のキャラクターが形づくられていました。ルーティンワークでは決して無いわけです。先ほど述べたように、そのことに私は、設計者としての倫理を感じます。では、その上で、何が竹中工務店らしさか。一つ気付くのは、先に挙げたような与条件が作品の強烈な個性としては打ち出されていないことです。建築において場所とクライアントとプログラムは、どれも微妙には異なります。ですから、説明可能な形で作品に個性を与えようとした時に、特殊な敷地やクライアントだからこんな変わった形になりました、といったように「与条件の過激化」に向かうという手法もありえます。今回の3作品の敷地やプログラムの個性からすれば、それも十分可能だったでしょう。しかし、そうしていません。そこに私は竹中工務店の良識を見ます。そうした姿勢の表れとしての建築は、どれも細部まで品が良く、都市に配慮した姿形として設計されています。そして、もう一つ、居室における空間の「面白さ」が追求されていないということも特徴だと思います。たまたま今回見せていただいたものがそうであるだけかもしれませんし、これも強力な与条件の一種だったかもしれませんが、居室については実験的倉方俊輔氏に聞く 都市と自然ー住まう空間InterviewInterview02
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