DESIGNWORKS Vol25
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ジェームス邸アムステルダムのpakhuis dezwijger※2 写真:倉方俊輔2006年に開業したベルリン中央駅※3写真:倉方俊輔伝統ですね。 モダニズムという様式主義の傾向が竹中作品に見られるということなのでしょうか。倉方 こう表現すると、モダニズムを表層的なスタイルとして洗練させているのが竹中工務店だと主張しているというように誤解される危険性があるのですが、私が言いたいのはそれとは違って、統合的、理念的、先鋭的なだけではない都市的・社会的な建築の良さをデザインを通じて備えようとしている。そこに竹中工務店の特質があるのではないか。それは様式主義、折衷主義が獲得した最良の性格を受け継いでいるのではないかということです。様式主義とモダニズムと表現は多少違ったとしても、建築が求めることなんて何十年かで変わるものではない。例えば、相変わらずクライアントの性格が重要であり、引き続き敷地に対して個別に設計しているわけです。建築の良質な蓄積が、我々が「住まう」都市を快適にしていく。そこで重要なのが、デザインする技術を持った設計者であり、困難な状況の中でもそれを最大限に活用する機会を常に窺うアーキテクトの意志ではないでしょうか。ジェームス邸は、そんな静かなアーキテクトの矜持が80年の時を超えて連続した好例だと思います。1934年に竣工した邸宅をハウスウェディング施設として活用したわけですが、竹中工務店は原設計を単なるスタイルとして真似したり、無視したりはしていません。今回の設計担当者は、約80年前の原設計者がどのように敷地を読み取り、クライアントの生活を理解して悦びを与えていったかを会得し、尊敬の念を持って設計にあたったのではないかと想像します。「文化財」や「遺産」として現代から除外するのではなく、過去の立場に立って設計を理解した上で、それをいかに更新するかが考えられているからこそ、今では再現が不可能な贅沢な邸宅がもう一度、生かされています。現地を訪れて、表面上のスタイルの差異を超えた、アーキテクト同士の対話をひしひしと感じました。もちろん、技術的な問題点や公的な補助金に頼らないといった困難なスキームを乗り越えられたので、私達はこうした素晴らしい実例を目の当たりにすることができます。それを可能にしたのが地域に根ざした組織の総合力でしょう。個人の集合体としての竹中工務店の歴史が、ジェームス邸からは感じられます。イギリス折衷主義から学ぶ日本の未来 良質なストックを活かすというお話がありましたが、日本の街の魅力を引き出していくことについてどのように感じていらっしゃいますか。倉方 最近、オランダ、ドイツ、イギリスに行ってきました。そこで改めて感じたことは、全てが歴史的であるということです。歴史の延長上に建物が建っているというところは共通していますが、歴史と現在に対する扱いがオランダとドイツとイギリスでは全然違う。歴史×歴史であることに気がつきました。オランダは増築をする時に、ある意味で軽々しくぶつけていきます。わざと対立を目立たせるようにして、軽薄さというか、それが新しい未来を作っている。ロジックだけでおしきってしまう様な、衝突させる感じにオランダらしさを感じます。ドイツ、特にベルリンは街全体が負性も含んだ遺産で、様々なものの蓄積が街の中に厚く積み重なっている。そこでは新しいものも歴史の中にまた別の重みを加えていくような、重厚な積層が感じられます。それに対してイギリスは中庸です。全てが折衷主義で、新しいものと古いものがぶつかるようには絶対に納めません。逆に言うと何が新しいのか古いのかを分からないような感じです。マイケル・ホプキンスのような建築家は、フランスにもいないだろうし、ドイツにもない。結局イギリスは一番ヨーロッパの中でもある種の建築の輸入国なので、主流の歴史には合ってこない。ゴシックも古典主義も全部合わせてある種の美を作る歴史があります。サー・ジョン・ソーンの博物館は様式の上では変としか言いようがない。ゴシック的なものとルネサンス的なものとバロック的なものと個人の妄想が全て混ざっているけれど破綻していないギリギリのところで成立しています。イギリスの持つ折衷主義の最大に過激な部分であり、そうした可能性はモダニズムまで続いていきます。様々な国を見ても歴史を意識して重ねていくというのは当たり前の話としてあって、ただその手法がかなり違います。それは今に始まったことではなくて18~19世紀に確立した国民性の延長であると考えます。では、日本はどうかというと、歴史を積み重ねていかなくてはいけないということは当たり前ですが、何をもって歴史のストックとして見ていくかが大きな問題であると思います。それは折衷主義的なところではないかと思っています。日本の建築は中国から輸入をした、いわば後進国です。色々なものがそれぞれ存在し、町並みとしては決して一つになっていないのですが、よく見るとその場所に対して誠実に作っInterview04
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