DESIGNWORKS Vol25
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ロンドンのセント・パンクラス駅(1868)※4 写真:倉方俊輔公開された王立内科医協会(デニス・ラスダン、1964)※5写真:倉方俊輔ている建物がある。そういう建物に新しく手を加えたり、街も一部を改めながらそれが良かったかのように見せることが折衷主義であり、今、求められていることではないでしょうか。折衷主義とは元からあったものに手を加えることによって内在していた価値を上げ、あたかもその可能性がそこまであったんだと思わせることだと思います。これは有名建築家だからいいとか、これはこの時代にできたからいいとか、そういうのを決めるべきではないでしょう。もっと多様にその場所に対して誠実に応対している建築の価値を、評論家なり建築家が見出し、次の作品をつくっていくときにその価値が上がるような試みが可能なのではないかと思います。リノベーションなど新しく積み足していくところも含めて、そのクライアントなり場所なりということを誠実に読み込みながら、対立をあおるのではなく、きちんとまとめていく竹中工務店のやり方も、そうした意味で折衷主義的だと思います。過激な一つの論理だけで無理やりまとめようとはしない、そこで元々持っている街の文脈とか物の価値というものが新しく価値付けられていく。そういうことが大事になっていくのではないかと考えています。現代のイギリスのように、自分たちの未来をこれから書き換える、自分たちの伝統はそもそもこうだったのだっていうものを新しいプロジェクトで作っていくことは可能であると考えています。改めて日本はイギリスから学んできたと思うし、学ぼうとした未来はまだ達成されてないでしょう。設計施工の可能性   我々は技術、デザインに対して少しでも新しいことにチャレンジしていくべきであると考えています。今後設計施工に対して期待することはどのようなことでしょうか。倉方 冒頭で述べたように、現在は「あらゆる場所に住居を成立させること」が要請されています。すると、クライアントだけではなく、住まう人のことも考えて、都市や自然といった環境の中に、きちんと住空間を定着させていくプロフェッショナリズムが求められます。住空間自体がほとんど同じようなものであったとしても、敷地はすべて異なってくるので、同じ良さを違う所で実現していくのは難しいことです。その至難の業をつなぐのがデザインです。そして、「遠景、中景、近景」のたとえで触れたように、最終的に都市に接触する大事な部分としてディテールがあるわけです。それを正しく落とし込めるのは現場を知っている設計者であって、設計施工がますます重要でしょう。これからも竹中工務店には、歴史の知恵を理解した、人道的なチャレンジを大いに期待しています。   本日はありがとうございました。倉方 俊輔(クラカタ・シュンスケ)/博士(工学)1971年 東京生まれ1994年 早稲田大学理工学部建築学科卒業1996年 早稲田大学大学院修士課程修了1999年 早稲田大学大学院博士課程満期退学2003-06年 日本学術振興会特別研究員2004年 博士(工学)2010-11年 西日本工業大学デザイン学部建築学科 准教授2011年- 大阪市立大学大学院理工学研究科都市系専攻 准教授著書 『伊東忠太を知っていますか 』 (王国社、2003)共著 『吉阪隆正とル・コルビュジエ』(王国社、2005) 『東京建築ガイドマップ 明治 大正 昭和』 (エクスナレッジ、2010)共著 『建築家の読書術』(TOTO出版、2010)共著 『ドコノモン』(日経BP、2011) 『東京建築みる・あるく・かたち』 (京阪神エルマガジン社、2012)共著※1 わずかな凹凸とディテールが、遠景・中景・近景それ    ぞれの豊かさを作り出す。※2 1933-34年に建設された冷蔵倉庫の敷地に道路計画   があった為、下部に道路を通してリノベーションされた。※3 ドイツ国会議事堂のガラス張りドームを臨む。※4 ガラス越しの日射しが、リニューアルされた商業   エリアを照らす。アーキテクトが統合する歴史。※5 ホールで、父親が娘に本を読み聞かせている。   オープンハウスロンドンのワンシーン。Interview05(聞き手:関谷和則・鈴晃樹)

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