DESIGNWORKS Vol.27
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杏林大学付属病院第3病棟 4床室写真:SS東京明石リハビリテーション病院 中庭写真:古川泰造 本号は医療・福祉建築を特集しています。首都大学東京の上野淳先生にはインタビューに先立ち東京の杏林大学医学部付属病院第3病棟と慶應義塾大学病院3号館、名古屋の藤田保健衛生大学病院低侵襲画像診断・治療センター、大阪の明石リハビリテーション病院をご覧いただきました。今後の病院建築はどうあるべきか、竹中工務店の近作と海外での事例を通してお話を伺いました。フレキシビリティとサステナビリティ上野 いずれの建物も、非常によく勉強しておられて、興味深く見せて頂きました。藤田保健衛生大学病院低侵襲画像診断・治療センターは特にフレキシビリティとサステナビリティということに先鋭に取り組んでおられるということに感銘を受けました。地下がリニアック、1階がPET、2階がMRI、3階がアンギオという風に、フロアによって求められている機能や間取り、部屋の大きさが全て違うので、大きく真ん中の4本の柱と、まわりの扁平の柱で構造を支えて中は出来るだけフレキシビリティに富んだプランが出来るようにしようとしているところが、面白かったですね。MRIやアンギオは機械そのものが日進月歩で進化するので、おそらくフロア毎に5~10年のスパンで間取り等も相当変わってくるだろうと考えて、内部の間仕切りは全て乾式でやっている。よく考えられて巧みなプランニングがされていると思いました。そういう意味でも、病院建築は、成長と変化にどう応えていくかが重要です。病院の一つ一つの空間にどういう機能が求められるかは、10~20年のスパンで変わると思います。医療機器の日進月歩の進化を考えて、「成長と変化に追随できる建築」を真っ向から取り上げている姿勢には、非常に共感できます。だから、藤田保健衛生大学は、将来的にも機能が成長・変化していく医療建築のこれからの一つのあり方を示すモデルじゃないかなと思いました。その意味でいうと、慶應義塾大学病院3号館も成長と変化を考えていますよね。構造の考え方は大きく井桁の構造と、自由な間仕切りができるような非常に規則正しく入ったスペースの中の柱の構成で、徹底的にフレキシビリティとサステナビリティを確保しようとしています。フロアによってPET-CTだったりキャンサー(癌)の化学療法だったり、健康診断だったり、上には病棟が乗っていますよね。そういう全然違う機能を各フロアでちゃんとプランニングとして対応できるように、構造のシステムを考えてある。それに加えて設備のサステナビリティ(特に給排水などの配管をちゃんと5~10年で更新できていくような設備の仕組み)がよく考えられていて、一つの特色だと思いました。それから、医療法人伯鳳会明石リハビリテーション病院ですが、比較的長期に患者さんが暮らしていくということで、なるべく暖かく、アメニティに富んだリハビリテーション病棟を設計しようという意欲が感じられて面白かったです。1階のリハビリセンターがちょうどエントランスの右側正面にあって、道行く人たちが、リハビリで頑張っておられる患者さんの姿を見られるという試みは凄く先進的な考え方だと思います。社会復帰に向けてリハビリセンターで一生懸命リハビリを頑張っておられる患者さんが、街を行く人々や公園で遊ぶ子どもの姿なんかを見られる。つまり、閉鎖的な環境じゃないところでリハビリに取り組む、社会復帰を一生懸命頑張るという、リハビリテーション病院の考え方は凄くいいと思いました。一昔前はリハビリ病院というと、普段は病棟にいて、45分~1時間リハビリセンターでリハビリをやり、病室に戻ってきてぐたっと寝てしまって、というのが一般的だったんですが、ここは病棟でも一生懸命リハビリを頑張ってもらおうという思想がある。現実に病棟リハ室と食堂で患者さんたちが色々活動しておられる姿が現実に起こっていて、今日的なリハビリテーションの考え方をよく勉強しておられるなと感じました。中庭に面した広い廊下を歩いていると他の階が透明なスクリーンでお互いに見え合って、「あの患者さんがこんな風にリハビリを頑張っている」ということが分かったり、中庭や廊下といった病棟まわりでもリハビリテーションを日常的なこととして取り組む病院にすべきだという考え方が伝わってきて、非常に納得できる病院でした。真ん中に大きな外部の吹き抜け状の中庭空間があって、廊下からちょっと出るとテラスがあって、しかもそのテラスから上の階が見えたり下の階が見えたりというような配慮は、都会型の病棟だと完全に空調でコントロールされていて、四季の変化とか暑いとか寒いとか、今日は風が爽やかだとかってあんまり感じることが出来ないのですが、この病院では中庭で自然環境を享受できるということが患者さんにとっては大きな支えになるなと思って感心しました。そして、杏林大学医学部付属病院第3病棟は、キャンパスの美しい林や森などをちゃんと残して、そういう自然環境と共存するように、非常に複雑になってしまったキャンパスを再構築していこうという姿勢が面白かったです。現時点では4床室主体の病棟構成なのですが、将来それを2つに割って個室にしていけるように、「変化に追随する」こともよく考えられている。さらに、個室にするためにはそれぞれに水廻りを付けなければいけないが、水廻りのゾーンは床を下げて、上下階に上野淳氏に聞く 社会に応える多様化する医療建築のあり方InterviewInterview02
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