DESIGNWORKS Vol.27
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影響を及ぼさないで工事ができるように予め変化に追随できるような仕組みをちゃんと作っている。サステナビリティという共通した考え方で努力している良い病棟計画だと思いました。   少子高齢化が進んでいくなかで病院建築の内部が成長と変化に追従することも大事ですが、慶應義塾大学や杏林大学のような大きな急性期病院の稼働しながらの建替えの問題もあります。上野 病院建築って案外短命で、40~50年で建替えてしまう。これをどう考えるかが大きな課題です。大病院、先端高機能病院とはいえ、40~50年で建て替えるのがそもそも地球環境・サステナビリティを考えるべき時代で、一体どうなのかなというのはまず大きな問題提起ですよね。だから繰り返しになりますけども、成長と変化にいかに建築として追随できるか。これは構造的なシステムもあるし、給排水を含む設備の取替えも含まれる。そして先端病院ではCT、MRIを含む医療設備がどんどん高度化して、取替える必要がでてくるので、そういうことにいかに真正面から答えるかというのが大きな課題です。これまで拝見した病院では、それぞれの設計者がそれに真っ向から取り組もうとしているのが非常に心強いと思いました。それからもう一つは、エコロジカルな仕掛け。例えば自然換気とか外の空気に触れられるとか、そういうエコロジカルな視点も、医療・福祉建築に限らずこれから非常に大きなテーマになってくると思います。ただ、短命なら短命で40年って割り切るっていう考え方も無い訳じゃないでしょうね、きっと。イギリスの公立病院はほとんどPFI※1で建てられていて、がっしりサステナブルに100年持つような病院としてつくられている場合と、明らかに「これは40年持てばいい」と思ってつくられている病院も実はあるんですよ。医療建築の寿命の考え方というのは難しい。でも、やっぱり私は「100年持たせよう、そのためにサステナビリティをプランニングの上でも設備計画の上でもしっかりしていこう」って姿勢は正しいんじゃないかなと思います。   藤田保健衛生大学のように病棟と診療部門とが分かれて計画されるケースが増えてきていますが、施設の寿命を分けて考えられるので、病棟の寿命が延びると思うのですが。上野 病棟と診療部門を別棟にして離し、動線の繋ぎでうまくやるっていうのは、一つの病院計画の考え方ですよね。だけど、一般的な都市における立地条件の病院を考えると「堂塔基壇型」になってしまう。病院建築の動線計画   今まで最短距離の動線計画が正という考えだったのが、病院側も震災等もあって多少距離がのびても水平で移動することの良さを理解されてきています。上野 幸か不幸か、杏林大学も慶應義塾大学もそのような全体計画にはなりつつある訳ですよね。これからの高機能病院の将来にとってはそういう考え方の方が有利かなという感じもします。   病院設計のロジックで、「患者と医者は分けなきゃいけない」という呪縛があって、そこからどうも抜けられないことがあります。アメリカでは、「一緒の動線でもいいじゃないか」という割り切りがあります。上野 患者動線とスタッフ動線と物流動線のEVを分けるケースが多いですね。我々にとっては常識なんだけど、それって考え過ぎなのかもしれないね。でも手術室とかNICUなんかの考え方は全く変わってきた。感染経路の考え方がだいぶ変わったんです。抗生物質が良くなって、術後の感染管理を空気上でやらなくても済むという話があって、それで大分変わりました。建築計画者側は、動線問題をクライアントに計画論として押し付けるところがあると思うのですが、よくよく話を聞いてみると、病院の人は意外と気にしてなかったりしますし、患者さんがいるところに白衣の人が通るのはそんなに悪いことではないと思いますけどね。患者さんにとっても看護師さんやお医者さんが甲斐甲斐しく、一生懸命きびきび働いているっていう事がちゃんと分かるから、勇気づけられるって側面もあると思うんだよね。あと、杏林病院や慶應義塾大学病院のように複雑になってしまったキャンパスを、50~100年単位で順繰りに整備していくという長期的な展望を持って提案していくことって、難しいけど大事なことだなと思いました。それと、4つの作品を見ていて、素材、色、肌触りなど、インテリアの選択でなるべく患者さんに肌触りのいい空間を提供する姿勢に感銘を受けました。住居の肌触りと空間性上野 肌触りがいいということは機能・プランニング的な話とは別に、病院建築にとってはとても大事なんじゃないかと思います。杏林大学の病棟と明石リハビリテーション病院、この二つは全然違うけどどちらも材料は良く吟味されてInterview03慶應義塾大学病院写真:SS東京杏林大学付属病院写真:SS東京

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