DESIGNWORKS Vol.27
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杏林大学付属病院第3病棟 デイルーム写真:SS東京藤田保健衛生大学写真:アーキフォトKATO選ばれていて、インテリア、材料の選び方にはある種の共通性を感じました。病棟を中心にして考えると、病院も患者さんたちの生活スペースです。「なるべく柔らかい癒し・肌触りのある空間を、少しでも残したい」というような事は大切だと感じてきました。高齢者施設も同じですね。24時間365日の施設なので、できるだけ住居に近い肌触りが望ましい。ただ、最近では、高機能病院では在院期間が短くなってきています。慶應義塾大学では16日くらいというお話でしたね。もうデイスペースだ食堂だなんて言っていないで、なるべく早く返しなさいと。そういう風に変わってきましたよね。だから、20世紀に病院建築で考えてきたことと、現在のように、下手すると在院期間が10日を割ってしまうようなときの病院建築の考え方って相当変わっていいと思うんです。それと藤田保健衛生大学や杏林大学に採用されていましたが、行き止まりに部屋を作らないでズバッと視線を抜くというプランニングは、特に病棟では大事なことです。方向性を失わないですし。視線が抜けて気持ちいい。外が見えるという基本原則は大切です。福祉施設の今後の展望   デイケアセンターとか高齢者住宅のような柔らかい福祉建築のニーズが、高まってきています。上野 例えばリハビリ病院は入院期間が長いですよね。急性期病院とは違って、日々の生活の中でリハビリテーションをやりながら社会復帰を目指す病院だから、患者とスタッフ、患者と患者、色んな風に相互に支え合っていくわけです。こういう施設はこれから凄く重要になります。それから、一口に高齢者施設といってもまとめられないくらい多様化してきています。デイケア・デイサービスっていうのもあるし、特別養護老人ホームもある、最近ではサービスつき高齢者住宅っていうのもある。でもやっぱり、空間のあるべき姿というのはやはり住居。高齢者の空間感覚ってことを大事にした設計が凄く大事になってくるんじゃないでしょうか。   従来の特別養護老人ホームのように完全に介護が必要になってからの高齢者施設ではなくて、健康を維持・増進するための高齢者施設という概念も出始めています。さらに高齢化が進んだ時の受け皿となる建築も必要です。上野 イギリスにはシェルタードハウジング※2という、一人暮らしあるいは二人暮らしのお年寄りが、元気だけども集まって住もうという考え方があります。それが日本のケアハウスのモデルにもなっているのです。それも20年くらい前から段々姿を変えていって、相当重度な人でも病院や特別養護老人ホームには入れずに、シェルタードハウジングでケアを受けながら、そこで頑張って生きていってもらうという風になりつつあります。だいたい40~50人くらいで住んでいて、ワーデンさんという世話役の人が一緒に暮らしているんです。そのワーデンさんが毎日様子を見て回ってくれるし、部屋にはアラームがあるので、急に具合が悪くなったらそれを押せばワーデンに繋がりますし、街の人たちにも繋がる。日本では特別養護老人ホームのように要介護度4~5で本当に重度の介護が必要な施設も実は足りないですけどね。でもやはり日本が今から目指すのは、必要なケアは外から訪問ケアの形で入れて、何とか自立して生きていく、つまり特別養護老人ホームや介護老人保健施設の負担をあまり重くしない暮らし方ではないでしょうか。   シェルタードハウジングのようなプログラムは今、我々設計者が最も取組むべきことの一つだと思います。上野 高齢者施設としては、東京には中学校と特養が合築されている事例が2つあります。それと、公立小学校の空き教室などを利用している、いわゆるお年寄りの通所施設というのがおよそ50くらいあって、少なくともそれらは非常に上手くいっています。子供達ってあまり高齢者に触れないじゃないですか。だから、車椅子になっても毎日頑張って通ってリハビリをやっておられる姿が子供達の日常的な感覚の中にあるっていうのは凄くいい。考えてみますと、高齢者施設ってある意味隔離施設というか、セパレートされてしまう側面が20世紀にはあったんですよ。そして学校も安全性という意味では外部の人が自由に入ってくることを拒絶する施設なんですね。そういう施設をinstitution、いわゆる「全制的施設※3」と呼ぶんですけど、全然異なるinstitution同士が合わさると、そこに爽やかな地域の風が吹く事が結構あるんですよね。それはこれからの大事なテーマです。デイサービスでも特別養護老人ホームでも。特に特別養護老人ホームなんかは本当に社会から孤立してますからね。自分で出かけられないし、家族以外には全く訪問者もいませんから。そして、暗黙のルールで皆が「こうしなきゃいけない」という統一ルールで動いているinstitutionの社会なわけじゃないですか。そうした異質なものがぶつかると、そのことに様々な意味で相互理解が進むという側面は絶対にあります。だから複合化というのは凄くいいアイディアだと思いますね。東京に2つInterview04

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