DESIGN WORKS VOL31
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本号はオフィス・研究所系施設を特集しています。建築家で京都大学大学院教授の岸和郎先生には、インタビューに先立ち、京都のサントリーワールドリサーチセンター、東京の池袋第一生命ビルディング、日本橋日銀通りビルをご覧頂きました。より複雑で多様化する社会環境を背景とする中で、モダニズムの概念との関係に着目し、現代オフィス・研究所空間のこれからの可能性についてお話を伺いました。オフィスランドスケープ   京都と東京の研究所・オフィスをご覧頂いた印象はいかがでしたか。岸 まず、当然ですが計画や諸条件が全部違いますね。東京の池袋第一生命ビルディングや日本橋日銀通りビルは、都市の中のオフィスビルで、両方とも偶然二面道路接続でした。京都のサントリーワールドリサーチセンターは、エレベーションの4面ともオープンしていて、規模も大きい。オフィスの歴史を振り返ってみて、昔は市役所のように整然と机が並んでいるタイプがあり、それが変化してきて、70年代から80年代の初めくらいに、大きな空間の中にそれぞれの居場所を創り出すといった、いわゆるオフィスランドスケープ※1と言われる時代がありました。サントリーワールドリサーチセンターはその方向に向かっていると感じました。使い方を限定するほど強くはないが、それぞれの場所にキャラクターがある場所を創って、その中で、日常的なアクティビティとしての仕事をする、ということを展開しています。それはオフィスランドスケープの正統な進化系という感じがします。建築が場所をキャラクタライズしていくことが可能な程、プロジェクトのスケール自体が大きい。この対極は何かというと、市役所の執務空間ですね。長方形の部屋があり、片側に開口部があって、開口部を背にした管理職がいて、その前に机が並びます。一見、とても整理されているような机配置の中で、それぞれの机の上がキャラクタライズされていきます。隣の人とは違う机の上にどうしてもなりますし、なりたいと思う人もいます。要するに、働いている空間に1日8時間いるとしたら、自分の痕跡のある空間の様なものが無いと長時間いられないのです。それを建築的に展開すると、サントリーワールドリサーチセンターのようになるという感じがします。コニカミノルタ八王子SKTも中央に吹抜けを介して繋がるコミュニケーションエリアが展開されています。一見吹抜けを介したコミュニケーションエリアに目が行きがちで、そこが重要に見えますが、むしろ逆に各階に変形した吹抜けが偏心して入ってくることによって、残りの執務空間の性格が変わって、仕事場としてキャラクタライズされる事の方が重要で、そういう所にオフィスの未来があるように思われます。住宅とオフィスの何が違うかというと、実はそんなに大きな差異はなく、住宅ではお茶を飲んだりご飯食べたり、オフィスでは仕事をします。いわゆるアクティビティは違いますが、一人の人間のトータルのアクティビティの中で、それを入れる容器という意味では住宅とオフィスに大きな違いは無いと思います。例えば奥行や天井高が何m、といった条件を満たすというように、オフィスはテクニカルに語られてきていますが、実際には、一人の個人が長時間過ごす場で、1日8時間いるとしたら人生の1/3くらいを過ごす場所になります。最近はオフィスをそういう空間として捉えようと思っています。構造体のスケールダウン   テナントオフィスビルは専有部までプランニングできないことが多いですが、その場合どのようなことが考えられますか。岸 テナントオフィスビルの場合、その内部の使い方に対してあまり発言出来ないとしても、やはり担うべきものがあると思います。例えば、ミース※2のシーグラムビル※3ですが、ミースが言ったのかどうか定かではないですが、見上げた時に一番重要な要素である天井面こそが、新しいエレベーションだと考えていたそうです。シーグラムとしてのアイデンティティとして、知覚的に相当広い面積を占める天井については変更不可なはずです。シーグラムが担うべきは、パークアベニューを歩いている人から見られた際に、統一的な景観を形成するために天井面の照明計画については変更するなという、クライテリアを決めました。それは、シーグラムビルのテナントが入れ替わっても不変のルールです。つまり、ミースはそのオフィスビルが果たすべき都市景観への役割を提案している訳です。今の話は半世紀ほど前の事ですが、今日拝見して、一番重要なのは実は構造のスケールがダウンしていることだと感じました。例えば、SOM※4のレバーハウス※5みたいなものが典型的なオフィスの形になっている訳ですけど、都市に対してはキャンティレバーとカーテンウォールが責任を持ち、内部構造と建築についてはラーメン構造という形式になる。ミースのシーグラムビルとSOMのレバーハウスの何が違うかというと、シーグラムビルはキャンティレバーになっておらず、柱にカーテンウォールがついています。岸和郎氏に聞く数寄屋化するモダニズムInterviewサントリーワールドリサーチセンター写真:平井 広行コニカミノルタ八王子SKT写真:小川 重雄シーグラムビル写真:岸 和郎Interview02

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