DESIGN WORKS VOL31
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あの微妙なディティールは、なぜそうなっているのか、まだ答えが分かりません。そもそもミースは、コンクリートのオフィスビルという計画案を1923年に作っています。その時はきれいなキャンティレバーで、カーテンウォールが自由になるような計画案を作っているのに、いざ自分がアメリカで大きなオフィスビルを設計するチャンスを得た時には、キャンティレバーという構造形式をとらず、柱が外被にくっついてカーテンウォールと外被が微妙な関係にあるエレベーションになっています。その斜め向かいに立っているSOMのレバーハウスは、ミースの計画案通りに、カーテンウォールをキャンティレバーに持ち出して設計されています。そうすると、内部に残された独立している柱のプロポーションが、とても気になってきます。いくらカーテンウォールで繊細なエレベーションが出来ていても、アメリカだから日本ほどではないけれど、内部にとても太い柱があるという形式になっていて、僕らはずっとそれがオフィスだと思っていました。今回拝見した建物はクライアント側からの要求等があったのでしょうが、結果として構造体のスケールがダウンしている。池袋第一生命ビルディングは、非常に単純に言うと、構造体が出来たらおおかた空間が決まる、といったものだと思います。日本橋日銀通りビルは、もう少し違う操作がされていますが、いずれにしろ、結果として、その構造体のスケールがダウンしてヒューマンスケールになっていて、意外に新鮮な空間に感じました。モダニズムの数寄屋化 都市への表情というのは、モダニズムの時代においては最も重要な視点の一つだったと思いますが、現在の東京は、都市との関係が非常に希薄になってきていて、モダニズムの変遷の中でかなり均質な風景に帰着しているようにも思いますが、いかがでしょうか?岸 均質というか、言い方を変えると数寄屋化です。数寄屋は江戸時代の初期に書院建築がリファインされていくなかで成立していくわけですが、モダニズム建築も長い時間の中でどんどん変化していて、変化の果ての最終形を私はモダニズム数寄屋と呼んでいます。日本橋日銀通りビルはその典型です。非常用進入口の三角マークをペアガラスの内側に貼る所作は、圧倒的に数寄屋化です。外側のガラス面に貼ってあろうが、普通の人には関係ありませんが、その三角マークが一枚内側に入ると外部からの表情は良くなる。他にも150mm外に出ている部分、非常進入口の750mmというサイズ、750mmプラス3600mmがエレベーションのリズムを作っています。池袋第一生命ビルディングはモダニズムの持っているユニバーサル・スペース、均質空間を組積造の考え方を参照して、上にいくほど柱が細くなって開口が大きくなることで不均質にしていく。とても良く分かりますが、そうであれば右上の大きな開口と足元の隙間、特に地面に接地していないのは、組積造の思想と照らし合わせると、少し異なるように思われます。思い返してみると竹中工務店は、御堂ビルを設計した岩本さんの時代から数寄屋化しています。竹中数寄屋というのが、やはり竹中工務店の建築のあり方の一つだと思います。それは、もう少し自覚すると良いのではないでしょうか。それは大手設計事務所と違う、設計施工故の数寄屋化のようなところがあるように思います。例えば、建築は基本的にエレベーションが3層構成で、基壇があってその上に建築本体があって、その上に屋根がのります。英語でいうとベース・ボディ・クラウン、あるいはルネッサンス的に言うとルスティカ、ジャイアントオーダーのコラムの部分、それから屋根と、古典系の建築は必ず3層構成です。そこでコルビュジエ※6はその基壇の代わりにピロティをやりました。だからそれで水平面を作り、上に主階を持ってくる。2階が主階という建築のルールをコルビュジエは絶対守っているんですよ。常に2階っていうのが建築の主階になる。だから結局コルビュジエのエレベーションも3層構成なんです。サヴォア邸※7で言うと、屋根をコルビュジエは捨てて、ソラリウムという変な壁を立てて3層構成のエレベーションを作っています。3層構成がルールだと分かっていて違反しています。だから、コルビュジエがサヴォア邸のエレベーションを作るときに何も考えずにやっているのではなく、わかってて逸脱しています。このように明らかにルールから逸脱すると思われる所作を行い、意識的に強調されて、ある種先鋭化していく。そこにモダニズム数寄屋の生き残る道があるのではないかという気がしています。人、環境、インターフェイス 近年のオフィスではコミュニケーションの誘発や環境負荷低減という社会的な要望も強く求められています。岸 オフィスに関して2つのエピソードを紹介します。1つ目は東京のあるオフィスの内装の設計を行いました。窓があるとPCのディスプレイに写りこむため、窓が邪魔になる事に気が付き、現代のオフィス空間に本当に窓はサヴォア邸写真:岸 和郎Interview03
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