DESIGN WORKS VOL31
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必要なのかと疑問に思いました。そこで、窓際にコミュニケーションゾーン又は、ある種のインターフェイスゾーンを計画し、その内側に障子のようなスクリーンを入れ、そこから内側を事務スペースとする提案をしました。その窓際はミースのシーグラムの天井面ではないですが、外から見上げた時にその会社のアイデンティティが見えるような、都市に対する看板のようなものにしました。2つ目は、「みせん未生」という韓国の巨大商社のテレビドラマを見ていて気が付いたのですが、何か決定がなされたりシーンが展開するのは必ず屋上や中庭であったりする。つまり、オフィスにとって重要なのはそこに窓があることではなくて、別のコミュニケーションスペースとして許容条件付きの屋外空間が色々と用意されていることが、今オフィスに求められている形なのかなと、ふと思いました。これら2つのエピソードから、オフィスにおける開口部の在り方、環境とのインターフェイスと呼んでも良いかもしれませんが、そこを考えた方が良いのではないかという気がしています。働いているその場所でインターフェイスを取るべきなのか、それとも、働いている時はきちんとエアコンが効いていて温度も照明も一定の場所でたくさん働いて、だけど3時間に1回ぐらいは全然違う雰囲気のところに行って、他部署の人同士がコミュニケートする形式が良いのか。それとも、風が抜けていくとか、自然光が入るとか、働いているオフィス空間の許容度を上げて、その場所の環境に対する順応度を上げていく事がオフィスの答えなのか。特に高層化していると開口部を開けることはできなくなる。そうすると、仕事をぬけて屋上にたばこを吸いに行く、そういうすごく人間的なコミュニケーションの方が結構重要なのではないかなという気がしています。   モダニズムの流れの中で不均質な空間で生活、働くことの方が良いのだという概念が生まれ、自然が人間のための環境から建築のための道具になって、装飾化している傾向もあるような気がします。岸 要するに、オフィスの話をするとこの長方形の空間の話に行き着く訳です。例えば、北側の立面は、この採光条件でこのエレベーションでこういう風に換気可能なスキンができるとか、その話は非常によく分かるけれど、なんでオフィスは長方形の空間であることを前提にスタートするのか。経済条件があるから四角い箱でスタートするのは非常によくわかる。ぐにゃぐにゃした形にしろと言っているわけではなくて、先程の話じゃないですが、ここで集中して仕事をし、でも3時間に1回休憩を取った時の空間も用意してあげるというのが僕の立ち位置です。もしここが本当にコンピュータを使って仕事をするのであれば、それに最善の空間を考えてあげれば良い気がします。東京のアマンホテルを見た印象というのは、普通の高級都市ホテルだ、ということです。アマンはこれまで都市ホテルを作っていなかった。高層ビルの上の方で何層かだけをホテルにするというケースは沢山あって、アトリウムとインテリアデザインになってしまう。そうなると、アマンも他の高級ホテルと同じです。でも、アマンというのは地面に着いていて開口部がフルオープンしていて、出るとプールがあって素晴らしいランドスケープが見えて、その場所らしい、開口、景色のとり方というのがアマンなのです。アマンはデザインを提案していたわけではなく、あるライフスタイルを提案していたのではないかと思っています。つまり、オフィスビルも、例えばガラスが開かないなら開かないで良いと思います。集中して働く空間と、それと同時にリラックスできる空間も用意されている、というような提案。それは、働き方の提案でもある訳です。働いている場所の環境を人間的に良くしていくことだけがオフィスの未来ではない気がします。働く場所の環境を良くしてあげる、というのは突き詰めていくと冒頭のオフィスランドスケープでもあるわけです。ただ過剰になり過ぎると、装飾的なインテリアに陥ってしまう。プレキャストの魅力と脱キャンティレバー   3つに共通してプレキャストを駆使した表現というのがあります。特に設計施工の場合は施工と一体化した技術と表現といったものが大事になってきます。そのあたりでモダニズムとの関係でお気づきになったことはありますか。岸 サントリーワールドリサーチセンターを拝見したときに、実は伸びやかで美しいカラーコンクリートのファサードにはそれほど意識が向きませんでした。それは、すごく小さなプロジェクトをとても密度高く仕上げるときには意味があるけれど、茫漠としたランドスケープの中に建築が建つときには、相対的に気にならないのかもしれません。プレキャストという観点でいうと、プレキャストの最大の特徴は工場製作という事なので、構造体として使用している池袋第一生命ビルは、精度の高さを実現することをプレキャストという技術がバックアップしており、説得力があるように思いました。フランク・ロイド・ライト※8も晩年カラーコンクリートのプレキャストを池袋第一生命ビルディング写真:井上 登日本橋日銀通りビル写真:エスエス東京 島尾 望Interview04

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