DESIGN WORKS VOL.32
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1995年に刊行され、建築界にセンセーションを巻き起こした伝説の書、『S,M,L,XL』※1。そこで提示された「ビッグネス」や「ジェネリックシティ」というコンセプトは現代都市に起こっている現象を鮮やかに示していました。その著者であるレム・コールハース※2は、自身が率いる設計組織OMAやクリエイティブシンクタンクAMOとともに、現代都市の分析と建築への実践で今なお現代都市論/建築論に新しい地平を開き続けています。『S,M,L,XL』刊行から20年を経た2015年、「ジャンクスペース」等その後の話題作までを収録した『S,M,L,XL+』が日本で翻訳出版されました。そのような状況の中、本号では、大規模から小規模にわたる商業・文化系の作品から、改めて都市機能としての建築のありかたを特集しています。インタビューにはOMAパートナーであり、OMA-NY事務所の代表として、世界中で注目プロジェクトを指揮する傍ら、ハーバード大学デザイン大学院(GSD)で教鞭をとり、「食のデザイン」と題するスタジオを率いて「食・建築・都市」の新たな関係性について研究している建築家・重松象平氏をお招きしました。今回、重松氏には大阪のあべのハルカス、もりのみやキューズモール、東京の新宿東宝ビルを見て頂き、現代社会が求める商業建築のプロトタイプと設計者に求められる建築的思考の関係という視点から、これからの建築の可能性についてお話を伺いました。立体的な都市機能の表現   大阪と東京の商業建築をご覧頂いた印象はいかがでしたか。重松 都市的な建築を3つ見せて頂いたという点で、非常に有意義でした。偶然かもしれませんが、3作品とも都市の複合商業施設のプロトタイプを意識していて、それでいて各々特殊性を上手にくみ取っているという共通点を感じました。日本の複雑な都市をどう解決していくかという熟練した解答だと感じます。複合とか複雑系の中からそれをどう表現していくかという意識が表れていて、こういうレベルのものに皆さんは取り組まれているというのが、印象深かったです。特に、ボリュームというものを意識していると思いました。複合施設だったからでしょうか、3作品とも機能を構成するストーリーがきれいに解けていて、結果としてピュア且つ新しいボリュームが現れていると思います。通常、スタートに「事業性」というわかりやすい経済効果の基準があって、その延長線上にボリュームをどう組み合わせるかという話がつながってきます。OMAでも、そこをきちんと手続きとして踏んで、それらをどう組み合わせていくのか、どう分節して見せていくかを工夫しているのが事実です。そこからさらに形態的操作を加えることは我々の場合は意匠上好まないので、ボリュームの構成を素直に表現に落とし込みます。事業性という手続きによって見えてくる現代社会の粗型みたいなものがベースになっているのかもしれません。ハルカスはインフラとの関係や機能の複合化がある種の素直さをもって表現されていました。例えば六本木ヒルズやミッドタウンがそうですが、コールハースは著書『錯乱のニューヨーク』※3の中で、70年代からニューヨークの建物が複合化されていく様子を鮮やかに描写していました。その時の複合化というのは1つの建物、つまり1つの型枠の中に種々のプログラムを入れていくという方法です。我々はそれを弁当ボックス化と言っていますが、最近までそういうものが主流でした。ところが、複合化しつつも最終的には各プログラムの採算をとるために各々の整合性がより必要となってきます。それらを1つのタワーに入れてしまうとどこかで支障をきたすので、それぞれの整合性を突き詰めて行った先では、各プログラムに最適化したボリュームの積み重なりや、その構成が現れてきます。まさに都市が積み重なるということが起こっているということです。そのような意味でハルカスはアプローチに対してとても共感を持ちました。『錯乱のニューヨーク』では、土地を空中に何度も複製していくという概念からニューヨークの高層ビル群が生まれ、それが転じて都市に予測していなかったプログラムが混在していく様子をレポートしています。その中では、それが良い/悪い、ということを言わず、あくまでジャーナリスティックに伝える方法を採っていました。そのため述べられている内容は高層ビルそのものの中に種々のプログラムが入ってくる可能性がある、というところまででしたが、現在、渋谷のヒカリエなどのような次世代の形態を持った複合建築が生まれてきていることを強く感じています。そしてそういうものが日本から生まれてくることに、なにか必然性を感じます。もりのみやキューズモールはモールの未来形を示していると感じました。モールにスポーツクラブを挿入し、トラックを建築化するという明快な構成で、シンプルなコンセプトに見えるのですが、どこか今のモールは物足りないという、新しい姿を求める根本的な欲求のようなものから、クライアントと皆さんが一緒に考え、試行錯誤していった物語が非常によく伝わってきました。都市における機能の立体的な積上げられ方の結果というのでしょうか、そのボリュームの隙間に都市性みたいなものがつながっていくという点が非常にユニークでした。スケールは全く違いますが、ハルカスとこのプロジェクトには機能を立体的に構成し、単体でも新たな都市性を内包していく重松象平氏に聞く建築的思考の可能性Interviewもりのみやキューズモール新宿東宝ビルAnalogy of lunchbox 資料提供:OMA-NYアーキテクチュラル・シンキングアーキテクチュラル・シンキングInterview02

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