DESIGN WORKS VOL.32
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という点で共通した意識を感じます。世界中の都市でモールは公共スペース化していますが機能的にあまり進歩していません。この計画はモールの公共性と商業性の曖昧な境界線をリアルに表現し、その危うさに対して建設的に警告していると思います。新宿東宝ビルでは低層部のシネマで決まるボリュームと高層部のホテルで決まるボリュームの違いを際立たせたことが、浮遊するモノリスというラディカルですが良い結果につながったと思います。都市のアイデンティティ   世界中の都市で仕事をされている中で、都市の歴史的なものが建築のアイデンティティに現われてくることをどう考えていらっしゃいますか。重松 言語・形態で文化を反映することは下手をするとディズニーランド的になるので難しいのですが、意識し続けることが非常に大事だと思っています。中世的な感じはしますが、グリッドや軸線などは今でも重要です。3作品を説明頂いた際に周辺の都市の構造的な歴史から始まりましたが、そういう視点から特殊性をくみ取るという点で一貫しているのは有効だと思います。ただしそれだけでなく、異なったスケールの特殊性、例えばサステイナビリティを語って地域特有の気候に対してこういうモールや高層ビルが現れるというような、世界共通の言語を使って建築単体にローカライズされる話が出てくるともっと刺激的だと思いました。地域の素材、ディテールを使う以外にも、場所の特殊性をモダニズム建築の枠組みでもっと表現できるのではないかと思います。例えばもりのみやキューズモールでは「日本の夏は非常に熱いから庇をつけ、日影をもったランニングトラックにする」という視点があっても良いかと思いました。私は今ハーバードでスタジオを持っているのですが「食」をテーマにしています。「食」を選んだ理由の一つは、衣食住の中で「食」というものは「衣」「住」と同じくグローバル化されているのですが、逆に究極に地域化もされているからです。今年のスタジオで取り上げる予定のハワイについて言うと、アメリカで唯一、1年間通して作物が取れる気候にもかかわらず、土地が限られていることと大きな港がないことから一旦LAを経由しないと輸出入できないという不都合な事情があり、食品が非常に高い。それを都市デザインという観点で改善したいというクライアントがいて、我々が資金をもらってリサーチしようとしています。一見建築と関係ないことをしていると思われるかもしれませんが、食というものが実は気候から農地、流通、リテールそしてキッチンまで様々なスケールで都市や建築と密接に関係しているということが総括的に見えてきています。もしかしたらその先には食というレンズを通して見た新しい都市の姿が見つかるかもしれません。実際に、実を結びつつある事例としてフードハブというケンタッキー州の新しい試みがあります。都市にもう一度農作物とか食に関するアクティビティをつかさどる機能を持ってこようというものです。アメリカの社会的な問題なのですが、低所得者数の多い街では生鮮食品が少なく、加工食品ばかり食べている。結果住民の肥満率が高くなり、医療費も高くなり、平均寿命は短くなる。その悪循環に対してどういう都市と建築の可能性があるか模索しています。これは建築だけでなく農業の用途地域の再定義や食の教育や流通の改革なども巻き込んだ新しいシステム作りです。そのような近況を振り返り、自分がイニシアチブを持って取り組んだテーマに付随する建築でこそ、タイポロジーまで踏み込んだ新規性が生まれることを実感しています。見せて頂いた3作品についてもクライアントとたくさんの協議をしながらソフトまで踏み込んでアイデアを練り、建築をつくっていた。それがやはり表れていて、ただ来た仕事に回答したのではない、アイデアと建築の特殊性がきちんとつながった建築だと感じました。新宿東宝ビルの件にしてもゴジラに目が行きがちですけど、これをやりましょうとクライアントから引き出すことができたのは、企画段階からクライアントとともにつくるプロセスを共有していたからだと思います。都市を変える建築   建築が新しいアイデアを取り込むことで都市自身の活力まで変わっていくという事例で、ビルバオ※4やハイライン※5がよく挙がりますが、建築が都市を変えるという試みについて伺いたいです。重松 都市の中での新しい公共性みたいなものを、皆心のどこかで潜在的に求めていると思っています。従来の公園や美術館といった公共建築ではだんだん満足されなくなり、それらがビルバオやハイラインのように強いキャラクタ―を持つようになっていった。その流れの中に、ここしばらくはショッピング機能が公共空間として仲間入りしつつあると理解しています。気を付けなければいけないのは、その潜在的な要望に合致したヒット建築が出て、こういうこともあり得るんだという新しい経験則が都市に生まれた後です。爆発的に世界に広がっていくという状況が生まれ、最初の2,3個は良いのかもしれませんが徐々に形骸化していって発展性がなくなってしまいます。ビルバオ効果について言えば、既に変化があり、アートのお金の流れは、美術館ではなくアートフェアやビエンナーレに移動しています。今、世界中で年間196個ものビエンナーレがあり、ある月を見ると23個のビエンナーレが同時期にDiagrams of Food Port for West Louisville 資料提供:OMA-NYFood Port for West Louisville資料提供:OMA-NYAlimentary Design Studio 資料提供:OMA-NYInterview03

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